決済CLS銀行の概要

1.CLSグループ組織

CLS決済運営を担う組織は、CLS銀行を中心にその親会社、関連企業、子会社など、五つの企業により構成される(下図)。

(1) CLSグループホールディングス

「CLSグループホールディングス」がCLSグループ全体の親会社となっており、グループ全体のマネジメントと戦略決定を行っている。
同社はスイス法人として設立されているが、CLS銀行(米国における銀行として設立)の持ち株会社として、米国中央銀行であるFedの規制を受けている。

同社は世界の有力外為取引銀行16行の株主銀行により保有されている(2015年12月現在)。
又傘下にCLS銀行などを子会社として保有している。

(2) CLS UKホールディングス

その下にあるのが、「CLS UKホールディングス」で、英国法人としてロンドンに設立されている。
同社は中間持ち株会社として、二つの子会社(CLS銀行、CLSサービシズ)の間の調整、管理を行うものとされる。
尚、同社は東京に事務所を有している。

(3)CLS銀行

CLS UKホールディングスの100%子会社になっているのが「CLS銀行」(正式にはCLS Bank International)である。
CLS銀行はニューヨーク州法上の「エッジアクト法人」(個人などからのリテール預金の受入れは行わず、国際金融業務に特化した金融機関)として設立しており、ニューヨーク連銀の監督に服している。
CLS銀行では18通貨を対象として、PVPの仕組みによる決済サービスを提供している。

(4)CLSサービシズ

「CLSサービシズ」は、英国法人としてロンドンに設立されており、CLS銀行に対して、コンピューターシステム運営、業務提携などのサポートを提供している。

(5)CLSアグリゲーション

「CLSアグリゲーション」はCLS銀行の子会社で、同社は多数の小口の支払指図を一本にまとめ、CLS銀行において決済を行う「アグリゲーションサービス」(集約化サービス)を提供している。
同社はCLS銀行が株式の51%を保有しており、残り49%をTraiana社(ICAP社の子会社)が保有している。

2.CLSグループ株主

世界の主要銀行76行がCLSグループホールディングスの株主となっており、これら株主行がCLS銀行のガバナンスを担っている。
株主行はガバナンスにおいて、平等な投票券(equal vote)を有するものとされており、CLSグループは、業界が保有する企業体(industry-owned consortium)となっている。

株主となっている金融機関のみがCLS銀行において直接決済を行う「決済メンバー」となることが出来る。
この為株主行が、CLS銀行のガバナンスとサービス利用の両面から中心的な位置付けを占めていることになる。

3.CLS銀行取扱通貨

重複するが、CLS銀行の取扱通貨について記しておく。
因みにこれら18通貨による取引は、全世界外為取引の内94%を占め、世界の外為取引の大部分をカバーする。
但し外為取引を行った二つの銀行が共にCLS決済の参加者となっていなければならないなど他の条件もあり、これら通貨による取引が全てCLS銀行により決済されている訳ではない。

CLS銀行では、決済対象通貨拡充に向け検討を行っており、ロシアルーブル、中国人民元、トルコリラ、ポーランドズロチなどが候補に上がっている。
既に外為取引における通貨のカバレッジはかなり高い為、これら通貨の追加により、CLS通貨のウェイトが飛躍的向上する訳ではないが、人民元については、最近急速に取引が増しており、この中で最もインパクトがあるものとされる。
CLS銀行では、 関連する中央銀行と連絡を取りつつ、通貨カバレッジ拡大を進めている。

4.CLS決済対象取引

CLS銀行で決済を行うことが出来る外為取引は具体的に
① スポット取引
② フォワード取引
③ 為替スワップ取引
④ 外為取引権利行使
⑤ OTCクレジット、デリバティブ取引
などで、これらの内スポット、フォワード、為替スワップの三種類の取引の決済が大半を占める。

この他「ノンデリバラブルフォワード」(NDF)取引(外為取引において実際に外貨を受渡しするのではなく、取引時レートと決済時レートの差額を主として行う米ドル決済取引)を決済対象としていた時期もあったが、現在取扱いを中止している。
これはNDF決済取扱量が少なかったことに加え、NDF決済は一方向の支払い(PVP決済ではない)である為、CLS銀行設立趣旨にそぐわないなどの理由である。

5.CLS銀行メンバーシップ

CLS銀行の決済サービスを利用するステータスとして基本的に、決済メンバーとサードパーティーがある。「決済メンバー」(settlement member)は、CLS銀行に口座を持ち、他の決済メンバーとの間で直接外為決済を行うメンバーで、言わばCLS銀行の直接参加者(direct member)である。
一方「サードパーティー」(third party)は決済メンバーの顧客として、決済メンバー口座を通じ、間接的にCLS決済利用する間接参加者(indirect member)の立場である。
下図に記す。

(1)決済メンバー

「決済メンバー」はCLS銀行直接参加者で、CLS銀行に多通貨口座を保有し、CLS銀行に対し外為取引(自身行及びサードパーティー分)の支払指図を直接送付して決済を行うことが出来る。

決済メンバーになるには
① CLS銀行の持ち株会社であるCLSグループホールディングスの株主(又はその100%子会社)である
② 一定の財務条件(自己資本、格付け、資金調達能力、高事務水準等)をクリアしていることなどの条件を満たしていることが必要である。自己資本については、格付けに応じ必要額が定められている

決済メンバーは、CLS決済において中心的役割を果たすことから、厳しい参加条件が定められ、この為、 各国大手行が中心となっている。決済メンバーは全てのCLS取扱通貨について時限性の高い払込み(ペイイン)を時間通りに行うことが求められる為、高度な流動性管理が求められる。

現行決済メンバーは64行(2015年12月現在)で、我が国金融機関では、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行のメガバンク三行と、三井住友信託銀行、農林中央金庫の五行が決済メンバーとなっている(この他、三菱UFJ信託銀行が「ユーザーメンバー」となっている。又野村証券では、英国現地法人(野村インターナショナル)が決済メンバーとなっている)。

(2)サードパーティー

「サードパーティー」はCLS銀行間接参加者で、決済メンバーの顧客としての位置付けとなる。
サードパーティーは、CLS銀行には口座を有さず、CLS銀行に直接支払指図を送付出来無い。
サードパーティーは自社取引を決済メンバーに通知、決済メンバーは傘下サードパーティー分をCLS銀行に通知の上、自己取引分と合わせてCLS決済を行う。
民間銀行、中央銀行、証券・保険、事業法人、年金基金、投資ファンドなどがサードパーティーになることが出来る。

決済メンバーとサードパーティーの関係は、当事者間の契約関係によるもので、CLS銀行は直接関与しない。
つまりCLS銀行とサードパーティーの間には何ら契約関係は存在しない。
この為サードパーティーが決済メンバーに対して支払いが出来無かった(債務不履行発生)場合でも、二者間の関係において解決され、CLS銀行に影響は及ばない。

世界大手銀行26行が顧客に対しCLS決済サービス提供をする「サードパーティープロバイダー」(TPSP:Third Party Service Provider)となっている(邦銀ではメガバンク三行が担っている)。
これらを通じ、約19,500社がサードパーティとしてCLS銀行での外為決済を行っている。
サードパーティの内訳においては、銀行が347行、事業法人56社、証券・保険等が67社、ファンド18,975となっている(2015年8月時点)。
ファンドの利用が目立つが、海外ファンドが外為決済リスクに敏感である為とみられる。

6.CLS決済を行う為の条件

CLS銀行において決済を行う為には、以下三つの条件が必要となる。

第一に外為取引対象となる2通貨(売渡通貨と買入通貨)が何れもCLS銀行対象通貨(eligible carrencies)となっていることが必要である。
上述した18通貨の中で何れかの組合せによる「通貨ペア」での取引であることが必要となっている。
取引を行う2通貨のどちらかが対象通貨となっていない場合は、CLS決済の対象とならない。

第二に外為取引の種類がCLS決済の対象取引(eligible transaction)となっていることが必要である。
上記の様にスポット取引、フォワード取引、為替スワップなど、幅広く行われている外為取引の多くは、CLS決済取引となっている。
但し当日決済取引については、一部の通貨ペア(米ドル、カナダドル間)のみがCLS決済で行われており、多くの通貨ペアの当日決済取引では、CLS決済が行われていない。 

第三に、外為取引の両方の当事者(trade parties)がCLS決済の参加者となっていることが必要である。
上述の様にCLS決済の参加者には、直接参加者である「決済メンバー」と、決済メンバーを通じて決済を行う間接参加者である「サードパーティ」とあるが、どちらかの形で参加者となっていることが、CLS決済を行う為の必須条件となる。