決済CLS銀行の本質

CLS銀行は決済に特化した「特別目的銀行」(special purpose bunk)であり、「個々の取引をリンクさせた連続的決済」(continuous linked settlement)という決済方式を実施することによって、外為決済にかかるリスクの削減を行っている。

1.PVPメカニズム

CLS銀行における決済は、「PVP」(Payment versus Payment:ある通貨と他の通貨との同時決済)の仕組みにより、外為取引における2通貨(売渡通貨と買入通貨)の同時決済を連続的に行う仕組みである。

PVPの仕組みでは、一方の通貨の支払は常に他方の通貨の支払と連動して行われる。
この為、二つの支払いを別々に行う場合は、タイムラグの存在により生じていたヘルシュタットリスク(外為決済リスク)を無くすことが可能となっている。

グローバルベースで世界の主要通貨を対象にPVP決済のサービスを提供しているのは、現在CLS銀行のみ(香港にローカルなPVP決済の仕組みがある)である。
CLS銀行では、インターバンクの外為取引の内、8割以上の決済を行っている(2014年当時の決済実績(一日平均)をみると、件数795件、金額5.1兆ドル。ピーク日には何れも2105件、10.7兆ドルである)。
即ち、銀行間の外為決済リスクの8割以上を削減、外為市場におけるリスク削減に大きく貢献しているのである。

2.決済システムとしてのCLS銀行

CLS銀行は決済に特化した「グローバルな多通貨取扱銀行」(global multicurrency bunk)であり、企業への融資や有価証券投資など、他業務は一切行わない「決済専業銀行」である。
又CLS銀行は、如何なる時点においても、外為取引当事者(counterparty)となることはなく、又決済メンバーに対し、決済保証も行わない。この為、外為決済リスクを負うことが一切無い仕組みとなっている。

この様に考えるとLC銀行は、「銀行」という組織形態をとってはいるが、設立の経緯からも分かる通り、本質的には外為取引にかかる多通貨決済を行う為の「マーケットインフラ」であり、「一種の決済システム」とみることが妥当である。

実際監督当局であるニューヨーク連銀では、CLS銀行を「システミックな影響の大きい資金決済システム」(SIPS:Systemically Important Payment System)と位置付け、規制・監督を行っている。
又英国でもCLS銀行は、「2009年銀行法」における「認定決済システム」と指定されており、イングランド銀行(BOE)の規制に服している。
更に米国「金融安定監視評議会」(FSOC)でも、2012年7月にCLS銀行を「システミックな影響の大きい金融市場インフラ」(SIMFU:Systemically Important Financial Market Utility)として認定している。
この様に各国規制当局においてもCLS銀行を決済システムと捉え、規制・監督を行っているのである。 

CLS銀行を決済システムとみて、その決済金額を代表的大口決済システムである米国Fedwireや欧州TARGET2と比較すると、2008年以降、CLS銀行の決済額がFedwireやTARGET2を上回っている。
つまりCLS銀行は今や「世界最大決済システム」となっており、世界で最重要の決済システムの一つである(下図)。

3.中央銀行のサポートと監督

CLS銀行は民間銀行として設立されているが、外為決済リスク削減という公的な役割を果たしている故、中央銀行から全面的サポートを受けている。一方でその役割の重要性から、関連する中央銀行によって共同のオーバーサイト(監督)を受けている。

(1)中央銀行によるサポートと監督

CLS銀行は、組織形態としては民間銀行として設立されているが、CLS銀行の設立は、純粋に民間セクターのイニシアティブとして始められた訳ではなく、このプロジェクトは元来、中央銀行グループから銀行業界に対し与えられた課題への対応として生み出されたものである。
こうした経緯から各国中央銀行では、CLS銀行に対して、プロジェクト段階から稼働開始後にかけ、一貫してサポート姿勢で臨んでいる。

例えばCLS銀行の取扱い通貨(2015年11月当時18通貨、米ドル、カナダドル、英ポンド、ユーロ、スイスフラン、日本円、豪ドル、デンマーククローネ、ノルウェークローネ、スウェーデンクローナ、シンガポールドル、香港ドル、ニュージーランドドル、韓国ウォン、南アフリカランド、イスラエルシュケル、メキシコペソ、ハンガリーフォリント)となっている中央銀行では、CLS銀行が各国中央銀行に口座を保有し、各国決済システムを直接メンバーとして利用することを認め、CLS銀行が各国通貨で日々の決済を行うことを可能としている。
こうした取決めは、中央銀行と民間セクターとの類希な協力関係といえる。

因みに日本銀行においてもCLS銀行に当座預金口座の開設を認めるにあたっては、「我が国に支店を設け銀行業を営むものではない為、「当座預金の選定基準」に定める本行の当座預金取引の相手方ではないが、同行が外為決済リスク削減を目的とする決済専業銀行として設立されたこと等に鑑み、当座預金取引の相手方とすることを決定した」としており、本来であれば選定基準に該当せず口座開設は出来無いが、特別な配慮により当座預金取引を認めたことを明らかにしている。

従ってCLS銀行を「単なる民間一銀行」と解すのは必ずしも正しくない。
寧ろ外為決済リスク削減を目的とした市場インフラであり、公的な性格を帯びた機関と解すのが妥当である。
こうした観点から、CLS銀行は「公的サービスを提供する民間企業」といわれることもある。

(2)中央銀行による協調オーバーサイト

CLS銀行は、毎日5兆ドルを超える巨額の外為取引決済を行っており、世界の外為決済において極めて重要な役割を果たしている。
この為システムの安定的稼働や厳格なリスク管理が重要課題となっている。
こうした金融システム安定上の要請から、CLS銀行では、前述の個別国における規制・監督以外に、国際決済銀行(BIS)及び関連する中央銀行による「協調オーバーサイト」(cooperative oversight)を受けている。(中央銀行が協調オーバーサイトを行っているのは、SWIFTとCLS銀行の二つのみで、中央銀行がCLS銀行の重要性を強く意識していることがこの点からも分かる)。

この協調オーバーサイトには、CLS銀行が決済対象としている18通貨の中央銀行が参加しており、関係する中央銀行により組織される「CLS監督委員会」(CLS Oversight Committee)がCLS銀行との間で定期的な会合を持っている。
この協調オーバーサイトにおいては、設立国の監督当局であるニューヨーク連銀が「首席監督機関」(lead overseer)として中心的機能を果たす。

世界の外為決済において、中心的位置付けを占めるCLS銀行の安定的稼働は、中央銀行にとって大きな関心事である。