法務金融商品取引業者等の行為規制(1)

1.金融商品取引業者等の行為規制の体系

(1)行為規制の基本的な考え方

平成18年金商法制整備により、利用者保護ルールの徹底を図る観点から、同じ経済的性質を有する金融商品、取引には同じルールを適用するとの機能的なアプローチのもと、金融商品取引業者等の行為規制が従前の業態を問わず横断的に適用されている。
又、同様の機能的、横断的アプローチのもと、金商法は金融商品、取引の販売、勧誘などに関する一般的な性格を有するものと位置付けられる。
銀行が営む銀行業、保険会社が営む保険業、信託会社が営む信託業などの様に、金融商品取引業又は登録金融機関業務に該当しない業務についても、銀行法、保険業法、信託業法などの金融規制法において、金商法の行為規制を準用するなどの所要の整備が行われている(銀行法13条の4、保険業法300条の2、信託業法24条の2)。これにより金商法の行為規制との同等性が確保されている。

一方、「金融商品取引業」を「第一種金融商品取引業」「第二種金融商品取引業」「投資助言、代理業」「投資運用業」に区分する業規制の柔構造化にあわせ、行為規制についても、当該区分に応じたものを定める柔構造化が図られている。

(2)行為規制の条文の体系

金融商品取引業者等の行為規制は、投資者保護及び資本市場の健全性確保を図る為に、金融商品取引業者等が、その業務を行うにあたり、一定の行為を禁止若しくは制限し、又は一定の行為又は体制整備を義務付ける規制である。
金商法における金融商品取引業者等の行為規制の条文の体系は、第一に、金融商品取引業者等に共通する行為規制が定められている(法35条の3~40条の5)。
当該行為規制には、金融商品取引業者等に加えて、その役員又は使用人に適用される禁止行為がある(法36条1項、38条)。又、金融商品取引業者等に加えて、その顧客に適用される損失補填等の禁止(法39条2項)がある。
一方、当該行為規制には、その内容から、金融商品取引業者等の内、一部の類型にのみ適用される行為規制が含まれる。
具体的には、以下に記す。

  1. ①「特定金融商品取引業者等」(証券会社、登録金融機関)に適用される利益相反管理体制の整備義務(法36条2~5項、令15条の27)
  2. ② 有価証券関連業を行う金融商品取引業者に適用される社債管理禁止等(法36条の4)
  3. ③ 有価証券管理業務を行う金融商品取引業者等の保険金受領等にかかる書面交付義務(法37条の5)
  4. ④ 第一種、第二種金融商品取引業各々を行う金融商品取引業者又は登録金

    融機関に適用される取引態様事前明示義務(法37条の2)、最良執行方針等にかかる義務(法40条の2)、分別管理が確保されていない場合の売買等禁止(法40条の3)、金銭の流用が行われている場合の募集等の禁止(法40条の3の2)、特定投資家向け有価証券の売買等制限(法40条の4)、特定投資家向け有価証券に関する告知義務(法40条の5)、ノミ行為の禁止(法40条の6)及び店頭デリバティブ取引に関する電子情報処理組織の使用義務等(法40条の7)

  5. ⑤ 投資助言、代理業を行う金融商品取引業者等に適用される書面による解除(クーリングオフ)(法37条の6、令16条の3第1項)
  6. ⑥ 投資助言、代理業又は投資運用業を行う金融商品取引業者等に適用される禁止行為(法38条の2)

第二に投資助言業務を行う金融商品取引業者等に適用される行為規制が定められている(法41条~41条の5)。
第三に投資運用業を行う金融商品取引業者等に適用される行為規制が定められている(法42条~42条の8)。
第四に有価証券管理業務を行う金融商品取引業者等に適用される行為規制が定められている(法43条~43条の4)。
第五に電子募集取扱業務(投資型クラウドファンディングを取り扱う業務)を行う金融金融商品取引業者等に適用される情報提供義務が定められている(法43条の5)。
第六に弊害防止措置(所謂ファイアウォール規制など)が定められている(法44条~44条の4)。
第七に特定投資家に適用除外される行為規制が定められている(法45条)

(3)受託者責任とその中心的義務

金商法における金融商品取引業者等の行為規制の基礎となる概念として、「受託者責任(fiduciary duty)」がある。
ここでの受託者は広く「他人の為に仕事をする者」である。そして「受託者責任」の中心的義務として「注意義務(duty of care)」、「忠実義務(duty of loyalty)」、自己執行義務(duty not to delegate)」及び「分別管理義務(segregation)」の四つの義務がある。
金商法では、受託者責任にかかる中心的義務として、以下の義務が課せられる。

  1. ① 全ての金融商品取引業者等に適用される基本的義務としての誠実公正義務(法36条1項)
  2. ② 投資助言業務及び投資運用業につき、善管注意義務及び忠実義務(法41、42条)
  3. ③ 有価証券管理業務につき、善管注意義務(法43条
  4. ④ 投資運用業につき、自己執行業務(法42条の3)
  5. ⑤ 集団投資スキーム(ファンド)の自己運用行為にかかる投資運用業及び有価証券等管理業務につき、分別管理義務(法42条の4、43条~43条の3)

(4)利益相反規制

金商法では、受託者責任(特に忠実義務)の考え方を基礎として、利益相反にかかる規制が定められている。
第一に特定金融商品取引業者等(証券会社、登録金融機関)につき、利益相反管理体制の整備義務が定められている(法36条~2~5項)。これは平成20年金商法改正により、銀行、証券間のファイアウォール規制緩和及び銀行グループ、保険会社グループなどの業務範囲拡大にあわせ、利益相反による弊害を防止すべき業務管理体制にも利益相反回避措置が必要とされる(法66条の33、金商業等府令306条1項7号)。
第二に金融商品取引業者等の利益相反行為を禁止する具体的規定が置かれている。
具体的に以下に記すが、これらの規定では、利益相反行為を禁止する趣旨から、自己又は第三者の「利益を図る為」という目的要件や情報などを「利用して」という相当因果関係要件が定められている。これらの要件への該当性は、客観的状況を踏まえて、実質的に判断されるべきである。

  1. ① 委託注文に優先する自己計算による有価証券の売買等の禁止規定(法38条8号、金商業等府令117条1項10号)
  2. ② 投資助言業務に関する利益相反行為の禁止規定(法41条の2第1~4、6号、金商業等府令126条1号)
  3. ③ 投資運用業に関する利益相反行為の禁止規定(法42条の2第1~5、7号、金商業等府令130条1項1~3号、6号)
  4. ④ 弊害防止措置における利益相反の禁止規定(法44条1、2号、44条の2第1項2号、44条の3第1項3号、2項3号など)

第三に金融商品取引業者等の利益相反行為を規制する趣旨を有する規定として

  1. ① 有価証券関連業を行う金融商品取引業者の社債管理禁止等(法36条の4)
  2. ② 金融商品取引業者等の取引様態の事前明示義務(法37条の2)
  3. ③ 顧客の有価証券、商品の担保提供、貸付行為の制限(法43条の4)
  4. ④ 引受人の信用供与制限(法44条の4)

などがある。
第四に平成16年証取法改正による証券会社の最良執行義務導入にあわせ、利益相反を規制する趣旨を有していた「向いノミ」(証券会社が有価証券に関する同一の売買又は同一の有価証券デリバティブ取引につき本人となると同時にその相手方の取次ぎをする者又は代理人となる事)の禁止規定(旧証取法39条)及び「ノミ行為」(取引所有価証券市場における売買取引の委託を受けた会員等などが取引所有価証券市場外で、自己がその相手方となって売買を成立させる事)の禁止規定(旧証取法129条)が削除された。
但しデリバティブ取引は最良執行業務の適用除外とされている(法40条の2第1項、令16条の6第1項2号)。一方、平成24年金商法改正により、商品関連市場デリバティブ取引にかかるノミ行為の禁止規定が新設されている(法40条の6)。

(5)個別行為規制と体制整備義務

(ア)個別行為規制

金融商品取引業者等の行為規制は、個別行為規制と体制整備義務に分類出来る。
個別行為規制は、金融商品取引業者に対し、個々の行為を禁止、制限又は義務付けるものである。行為規制の大半は個別行為規制である。

(イ)体制整備業務

体制整備業務は、金融商品取引業者等に対し、一定の体制整備を義務付けるもの、又は一定の体制を禁止するもの。
前者の例として、特定金融商品取引業者等の利益相反管理体制の整備義務がある(法36条2~5項)。この他、信用格付業者の業務管理体制の整備義務がある(法66条の33)。
平成26年金商法改正により、全ての金融商品取引業者等に対し、業務管理体制の整備義務が新設されている(法35条の3、金商業等府令70条の2)。
後者の例として、一定の業務運営状況の禁止がある(法40条2号、金商業等府令123条)。
尚、適合性の原則(法40条1号)は個別行為規制である。
金融商品取引業者等の役員による個々の行為が体制整備義務の趣旨に照らして問題がある場合であっても、直ちに法令等違反となるものではない一方で、一回の問題行為の発生から適切な体制整備が行われていないと認められる場合は、体制整備義務違反となる。

(ウ)「事故等」の届出義務

金融商品取引業者等は、その役員による「法令等」(金商業等府令13条4号イ(3))に反する行為があった場合には、「事故等」及びその詳細にかかる各届出が必要になる(法50条1項8号、金商業等政令199条7、8号、200条6、7号)。
「法令等」の内の「法令」は、日本の法令を意味し、外国の法令は含まれない(金商業等府令117条1項15号イ(1)参照)。「定款その他の規則」は、自主規制機関である金融商品取引業協会や金融商品取引所の規則を指す。
加えて金融商品取引業者等は、監督行政上、「金融商品事故等」の届出を求められる(金商業者等監督指針Ⅲ-2-2、Ⅷ-1)。
「金融商品事故等」とは
① 法令等に反する行為 
② 告発等を受けた時 
又は
③ これらに準ずるもの
をいう。

(エ)協会員による事故連絡書提出義務

日本証券協会の協会員は、その「従業員等」(従業員又は従業員であった者)の「事故」にかかる「事故連絡書」及び「事故顛末報告書」の提出が必要となる(同協会「協会員の従業員に関する規則」9、10条)。
日本証券業協会は、金融商品取引業の信用を著しく失墜させる行為を行った従業員等を「不都合行為者」と決定して、「不都合行為者名簿」を備え、協会員は、「一級不都合行為者」の永久採用禁止、「二級不都合行為者」の5年
間採用禁止を義務付けている(同規制4条2、3項、12条1項、13条の3)。

(6)特定投資家制度

従前の証取法などの金融規制法に基付く業者の行為規制は、投資者の属性に関わりなく一律に適用されていたが、平成18年証取法改正により、金商法では、主としてEUの制度を参考とし、投資家を「特定投資家」(プロ)と「特定投資家以外の顧客」である一般投資家(アマ)に区分し、この区分に応じ、金融商品取引業者等の行為規制の適用を行う事により、規制の柔構造化が図られている。
具体的には第一に、金融商品取引業者等が一般投資家との間で取引を行う場合は、投資家保護の観点から、金商法の行為規制が全面的に適用される。
第二に、その知識、経験、財産の状況から金融取引にかかる適切なリスク管理を行う事が可能と考えられる者が「特定投資家」と位置付けられた上で、金融商品取引業者等が特定投資家との間で取引を行う場合は、例えば契約締結前交付書面交付義務など、情報格差の是正を目的とする行為規制の適用が除外される一方、損失補填の禁止など、資本市場の公正確保をも目的とする行為規制は適用除外されない(法2条31項、45条)。
但し、金商法における特定投資家との間での取引についての行為規制の適用除外は、飽く迄も行政規制上の取扱いを定めるものであり、金融商品取引業者等が自主的に特定投資家に対し、一般投資家と同様の対応を行う事が禁止されるものではない。
第三に、一定の場合には顧客の選択により「契約の種類」毎に「一般投資 家から特定投資家への移行」及び「特定投資家から一般投資家への移行」が認められている(法34条~34条の5、金商業等府令53条)。
これにより投資家は下図の通り四種からなる。特定投資家と一般投資家との間の移行は、金融商品取引業者等毎に相対的なものである。 

第四に、投資者保護の観点から、法律上の行為規制による保護を全面的に受ける一般投資家が原則的な取扱いであり、特定投資家が特例的な取扱いであるとの考え方がとられている。
この様な考え方のもと、「特定投資家から一般投資家への移行」については、これを容易にする様手続き(移行申し出出来る旨の告知義務、移行申し出があった際の承諾義務、移行の有効期間無しや復帰申し出同意手続きなど)が設けられている(法34条の3、4)。
平成21年金商法改正により、期限日前であっても随時一般投資家への復帰申し出が可能である。金融商品取引業者等が後者の手続きに違反した場合、「特定投資家への移行」は効力が発生しない。AIJ投資顧問事件(平成24年2月発覚)を踏まえ、厚生年金募金については、当分の間原則として特定投資家への移行への申し出が出来無い(平成25年金商法等改正法附則3状の2)。

(7)最近の行為規制新設の特徴

最近の金商法改正では、他の制度、規制の実効性を担保する為に金融商品取引業者等の行為規制が新設される傾向が見られる。
具体的には第一に、平成20年金商法改正により新設された「特定投資家向け有価証券」(法4条3項)制度にかかる行為規制として、特定投資家向け有価証券は原則として特定投資家の間でのみ流通する事から 
① 特定投資家向け有価証券の一般投資家への売買等の制限(法40条の4)
② 特定投資家向け有価証券に関する相手方に対する告知義務(法40条の5)
が定められている。
第二に、平成21年金商法改正により創設された指定紛争解決機関(金融ADR)制度の利用強制をする行為規制として、金融商品取引業者の指定紛争解決機関との契約締結義務(法37条の7)が定められている。
第三に、平成21年金商法改正により創設された信用格付業者制度にかかる行為規制として、信用格付業は、「登録出来る」制度に留まる事から、金融商品取引業者等は、信用格付業者以外の信用格付業を行う者が付与した信用格付について、登録を受けていない旨などを告知する事無く提供して契約締結を勧誘する行為を禁止している(法38条3号)。

第四に、平成24年金商法改正により、標準化された店頭デリバティブ取引についての電子取引基盤の利用義務付けを実現する観点から、店頭デリバティブ取引を業として行う金融商品取引業者等が「特定店頭デリバティブ取引」を行う場合は、電子取引システムの信用及び取引情報の公表を義務付けられている(法40条の7、金商業等府令125条の7、8、平成27年金融庁告示67号)。