法務金商法の解釈

1.法の解釈のあり方

(1)概観

金商法では規定されている「ルール」を個別事業に適用するにあたり、金商法の解釈が必要となる。例えば「金融商品取引業」の範囲やインサイダー取引規制のバスケット条項の適用範囲を画する事は容易ではなく、その意味で金商法の解釈のあり方を考える事は、実務的にも
重要である。
「法解釈」とは「法源」から「法規範」を引き出す作業である「法の範囲も含める場合もあり、その際には狭義の法解釈の他に、事実認定、事実評価及び法規範の事実へのあてはめが必要になる。
金商法は、民事特例法、刑事特別法及び行政規制法の性質を併せ持つ事から、以下では民法、刑法、行政法における解釈論を参照するが、金商法の中核は行政規制法である事から、特に金融規制法(金融に関する行政規制法)の解釈のあり方を考察する。

(2)民法の解釈論

大村敦志(学習院大学大学院法務研究科)教授の見解によれば、狭義の「法解釈」とは、「法源」から「法規範」を引き出す作業」である。
解釈の方法として第一に、解釈の視点として、テクストのみを問題にするのが「文理解釈」「論理解釈」、テクストのみを問題にしないのが「目的論的解釈で、「目的論的解釈」の内、立法資料を問題にするのが「歴史的解釈」、現在の社会情勢を問題にするのが「客観的解釈」である。
第二に、解釈の原則として、論理的整合性を求めるのが「形式論」、事実的、価値的整合性を求めるのが「実質論」である。
第三に、解釈の技術として、拡張解釈、類推解釈、反対解釈(限定解釈)、縮小解釈などの技法がある。

(3)刑法の解釈論

前田雅英(日本大学大学院法務研究科)教授の見解によれば、現在の通説は「類推解釈は禁じられるが、拡張解釈は許容される」とし、許容される拡張解釈の
限界に達し、学説の多くは、言葉の「可能な意味」の範囲や、国民の予測可能性の範囲を問題とする。これに対し前田教授は、解釈の許容範囲の判断には、その意に加え保護法益や処罰の必要性との考量が必要であり、国民の予測可能性 の大小のみで構成要件の外延が定まる訳でなく、「言葉の中心的意味(核心部分)からの距離」と「実質的正当性(処罰の必要性)」との考量が必要とされる。

証取法違反の刑事事件にかかる最高裁判決は、前田教授の見解に近い「実質的解釈」をとっていると理解出来るのではないか。以下にいくつか例を記す。
第一に、日本商事株インサイダー取引事件に関する最判平成11年2月16日刑集53巻2号1頁は、原判決(大阪高判平成9年10月24日高刑集50巻3号155頁)が証取法66条2号4頁所定の重要事実を限定的に解したのに対し、これを破棄差し戻した。
第二に、日本織物加工株事件に関する最判平成11年6月10日刑集53巻5号415頁は、原判決(東京高判平成10年9月21日判事1679号15頁)が証取法166条2項1号にいう「決定」があったとは言えないとしたのに対し、これを破棄差し戻した。
第三に、大阪証券取引所仮装馳合事件に関する最判平成19年7月12日刑集61巻5号456頁は、第一審判決(大阪地判平成17年2月17日判夕1185号150頁)が証取法59条1項を限定的に解し被告人を無罪としたのに対し、これを破棄有罪とした原判決(大阪高判平成18年10月6日判時1959号167頁)を支持した。

(4)行政法の解釈論

林修三元内閣法制局長官の見解によると、法令解釈の種類として、第一に、「法規的解釈」(定義規定や解釈規定の様に法令自体がその解釈を示す)と「学理的解釈」(学理により解釈を示す)があり、裁判所や行政機関の解釈は、「学理的解釈」である。
第二に、学理的解釈は、「文理解釈」「論理解釈」に大別され、「文理解釈」は、法令の文言に主眼を置き、法令解釈する態度であり、「論理解釈」は、法令の規定の文字、文章以外の道理に主眼を置き、その規定を解釈する態度である(「条理解釈」或いは「目的論的解釈」ともいう)。文理解釈と論理解釈は、解釈態度としてはどちらも正当であり、常にどちらかが正しくどちらかが誤りというものでなく、且つそれぞれの場合に応じ、この二つの解釈態度を適切に併用活用し、最も妥当な結論を導き出す様にせねばならない。
第三に「論理解釈」の方法として、「拡張解釈」「縮小解釈」「変更解釈」「類推解釈」等色々な方法があるが、注意事項として、立法の趣旨、目的を考える事、他の法令との関係について注意する事、沿革、外国の立法例、社会における正義と公平の観念や公共の福祉との適合が挙げられている。この内、立法の趣旨、目的につき、原則的に立法当時の立法者の意思が重要な基礎になるが、法令の背景となる社会情勢が変化した場合には、それを取り入れる必要がある。

2.金融規制法の解釈のあり方

(1)文理解釈

金融規制法は、国民一般の権利義務に関係する法規範である「法規」に該当し、又その違反に刑事罰が設けられている規定が多い事などから、基本的に前田教授のいう刑法の解釈論に近い解釈態度を取るのが適当である。そして刑法や行政法規の解釈においては、法的安定性や予測可能性の観点から、私法である民法の解釈と比しても法令の「文言」が重要で、解釈の出発点は法令の「文言」でなければならない。
この点について、行政規制法である租税法の解釈につき、最高裁が、「租税法規」はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではない」と判示している事が参考になる(最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁)。

(2)実質的解釈

一方、法令の「文言」(言葉の可能な意味)には幅がある事から、文言を解釈する際には、大村教授のいう「論理解釈」の様に、法令の趣旨、目的などを踏まえる事が必要である。
これが所謂「プリンシプルベース規制」の考え方を踏まえた解釈態度である。そして法令の趣旨、目的の探知資料としては、林元長官が指摘する様に、立法資料と共に現在の社会情勢をも考慮する必要がある。そしてこの様な観点から、金商法の解釈にあたっては、投資者保護
及び資本市場の健全性確保という立法目的を踏まえる事が重要である。
具体的には、ある行為が規制対象として規定されている行為に該当するか否かにかかる「実質的解釈については、二通りの意味内容が考え得る。
第一に、法令の文言に形式的に該当するが、実質的に規制の必要が無い事などを理由として、規制対象とならないと解釈する事であり、いわば「縮小的実質的解釈」である。
第二に法令の文言には、形式的に該当しにくい面があるが、実質的に規制の必要性がある事などを理由として、規制対象となると解釈する事であり、いわば「拡張的実質的解釈」である。
これら両者は、法令解釈における「縮小解釈」「拡張解釈」に対応するものと考えられ、これらの解釈の技法は、何れも法令の文言の解釈から出発しつつ、「目的論的解釈」「実質的解釈」「論理解釈」を行う趣旨である。
但し、如何に法令の趣旨、目的を踏まえても、法令の文言の枠を超える解釈をする事は、法解釈の名において、実質的に立法するに等しい事から、「法律による行政の原理」を基本とする「法治国家」のもとでは許容されない。
この点に関連して、カネボウ少数株式損害賠償請求事件に関する最判平成22年10月22日民集64巻7号1843頁が、原審(東京高判平成20年7月9日金判1297号20頁)が公開買付制度の一般的趣旨などを強調して旧証券取引法施行令7条5項4号における「株券等」の意味を無限定に解したのに対し、これを破棄し、法令改正の経緯などを踏まえて、当該文言の意味を合理的、限定的に解釈した事が注目すべき所である。

(3)脱法行為への対応

脱法行為とは、法律の禁止を免れる行為、特に強行法規に直接には違反しないが、実質的にはこれを免れる行為である。
脱法行為は、法令の趣旨、目的に照らして不当であるとの実質的な価値判断を前提とするものである事から、これを法令違反と判断する誘引が働く事は否定出来無い。
しかしながら金商法には、独禁法17条の様な明示的な脱法行為の禁止規定は存在せず、脱法行為も形式的には法令の文言の枠内行為である事から、金融規制法の法的安定性と、予測可能性を確保する観点からは、脱法行為を法令違反と捉えるのは、飽く迄例外的事象と考えるべきである。
この様な観点から脱法行為は、脱法目的であるとの主観的要素及び法令の趣旨、目的に照らして、高い不当性が認められる客観的状況がある場合に限り、法令違反と判断する事が許容されるものと考えるべきである(ライブドア刑事事件における投
資事業組合の取扱いに関する東京高判平成20年7月25日判時2030号127頁参照。最決平成23年4月25日公刊物未登載により上告棄却)。

3.金融規制法の解釈の主体

(1)行政解釈の概要

金融規制法の解釈についても、民法や会社法、刑法の解釈同様、最終的には裁判所(特に最高裁)が行うものであるが、高度に専門技術的な分野なだけに、金融規制法の施工について責任を有する行政機関である金融庁(証券取引等監視委員会)が示す行政解釈が重要である。
こうした行政解釈は、所謂「有権解釈」として、国会や裁判所、国民に対する法的拘束力を持つ訳ではないが、行政権限の存在を背景としているが故に、事実上、相当強い拘束力を有しているのが実態である。

(2)行政解釈の課題

一般に法解釈には行政裁量は無いと解されるが、金融庁による金融規制法の行政解釈については、「解釈権を規制当局のみが有しているとなると、「裁量行政」にほかならなくなる」(池尾和人立正大学経済学部教授)との問題がある。
この問題を実務的に克服する為には、行政解釈について、明確性、透明性、迅速性及び「公正且つ簡易に争う機会」の確保が必要である。