税務犯罪収益移転防止法と日弁連

 犯罪収益移転防止法(以下犯収法)について、続いては、弁護士・弁護士法人、外国法事務弁護士(以下弁護士等)に於ける諸々について述べていく。
 弁護士等に於ける取引時確認、記録作成保存義務については、弁護士会会則に委ねられ、日弁連が定めるに、”依頼者の本人特定事項確認、記録保存等に関する規定” ”依頼者の本人特定事項確認、記録保存等に関する規則”があり、是を違反すれば懲戒処分対象となるのだが、犯収法8条 疑わしい取引届出義務は士業を除く為課せられない。

 小生の経験上、凡ゆる企業が顧問弁護士として迎え入れていると思われるが、該国際税務、租税回避、タックスヘイブン、租税紛争などの御託を並べた途端に泡を喰った顔をする場面を思い返してしまうのであるが、貴兄等の会社の顧問弁護士は如何であろうか。若し思い当たる節があるのであれば、以下熟読して頂き、方針の参考にして貰いたい。その際は是非お一人で読まれる事をお勧めする。

 日弁連規則2条、8条3項より、先ずは本人確認について述べる。法律事務に関連し、依頼者金融機関口座管理、又、依頼者より若しくは依頼者の為に金員、有価証券その他資産(合計200万円相当額以上)を預かり(金融機関振込などに拠る送金も含む)若しくは其の管理(以下資産管理行為等)に際し、本人確認を要する(日弁連規程2条1項)。
 只し例外がある。

    • 裁判所、法務局、金融機関その他の機関に、租税、供託金、保証金、予約金、保釈金、罰金、科料、追徴金、過料その他此に類する金員を納付する為に金員預託を受ける
    • 裁判所その他紛争解決に於ける機関の関与した手続きに於ける判決、決定、調停、和解などに拠り、依頼者その他関係者が負担する債務履行の為に金員預託を受ける
    • 裁判所その他紛争解決に於ける機関の関与した手続に於いて、相手方その他関係者が負担する弁済、和解金その他此に類する金員を受領する
    • 刑事事件に於いて、被害者、其の遺族、又、其の代理人(法定代理人も含む)に弁済する為、被害弁償、示談、見舞金其の他是に類する金員の預託を受ける
    • 弁護士等の報酬、費用の前受けとし、金員を受領する
    • 任意後見契約に於ける法律2条1号、任意後見契約に基づく事務として行う
    • 依頼者が成年後見、破産管財人など、裁判所に拠り選任されるもので、当該依頼者職務とし行う事が出来る行為につき依頼を受ける
    • 遺言執行者と(資産管理行為等を行う際その他是に類する場合であり、資産管理行為等を行うに際し、当該資産管理、処分をする権利を有する者につき、本人特定事項確認が出来無い

 上記イ〜チの場合、前記に該当したとしても例外として本人確認が不要とされる。
 次に日弁連規程2条2項について。弁護士等は、以下a〜kの取引その他行為(以下取引等)に於いて、依頼者の為の準備又、実行に際し、本人確認を要する旨を定めている。

    • 不動産売買
    • 会社設立、経営目的の出資其の他是に類する資金拠出行為又其の手続き
    • 会社組織変更、合併、分割、株式交換・移転又は定款規定された目的変更
    • 会社業務を執行、又は代表する者の選任
    • 団体等設立又、合弁に関する行為
    • 団体等の定款、規程又組合契約などに規定された目的変更
    • 団体等業務を執行、又は代表する者の選任
    • 信託契約締結、信託併合若しくは分割又信託契約、規約に規定された目的、受託者変更
    • 会社買収、売却(合弁、会社分割、事業譲渡・株式売買、M&Aなども含む
    • 取引其の他行為に係る資産が犯罪に拠り得た収益の疑い、又、依頼者に対し、取引其の他行為に関し、組織犯罪処罰法10条、麻薬特例法6条の罪に当たる行為の疑いが認められるもの(疑わしい取引等)
    • 同種の取引、行為と著しく異なる態様の取引等

 又、此等にも例外があり、上記該当に際し、官公署委託の場合に於いては、本人確認不要である。尚、日弁連規程8条3項にて、弁護士等は、法律事務に関わらず、全員、有価証券其の他資産を預かる際、本人確認を要するとしている。
 日弁連規則4条に於いて、本人確認に際し、本人特定事項確認を要しているが、依頼者が外国所在する為の住居、生年月日立証が困難であったり、逮捕・勾留されていたりする場合、本人特定事項確認厳格化が受任妨げになる畏れがある際の特別措置規程を定めている。
 では実際の確認方法は如何様であるか。原則弁護士に拠る取引時確認方法は、日弁連規程2条3項に於いて下記に記す方法の何れかに拠り本人特定事項確認方法としているが、自然人に於いて、本人特定事項確認要求が、正当な法律事務受任妨げになる畏れがあるとし、規則で定める場合にあっては、規則で定める事項をいう。

一 依頼者が自然人である場合 次に掲げる方法のいずれか

    • 写真付自然人本人確認書類の掲示を受ける方法
    • 自然人本人確認書類(写真付本人確認書類を除く。)の提示を受けるとともに、当該自然人本人確認書類に記載された依頼者の住居に宛てて委任契約書等を書留郵便物等により転送不要郵便受物等として送付する方法
    • 二種類の保険証・年金手帳等の提示を受ける方法
    • ニ 保険証・年金手帳等及びこれとは別の自然人本人確認書類(写真付き自然人本人確認書類を除く。)又は補完書類の提示を受ける方法
    • 保険証・年金手帳等の提示を受け、かつ、これとは別の自然人本人確認書類(その写しを含む。へにおいて同じ。)又は補完書類(その写しを含む。)の送付を受ける方法
    • 自然人本人確認書類の送付を受けるとともに、当該本人確認書類に記載された依頼者の住居に宛てて委任契約書等を書留郵便等により転送不要郵便物等として送付する方法
二 依頼人が法人である場合 次に掲げる方法のいずれか

    • 法人本人確認書類の提示を受ける方法
    • 法人本人確認書類(その写しを含む。)の送付を受けるとともに、当該法人本人確認書類に記載された依頼者の本店又は主たる事業所に宛てて委任契約書等を書留郵便物等により転送不要郵便物等として送付する方法
    • 弁護士等が官公庁等から法人本人確認書類の発行又は発給を受ける方法
三 他の事業者から依頼者を紹介された場合において、当該他の事業者が法令の規程に基づく適切な措置により本人特定事項の確認を行っており、かつ、当該確認のための資料をいつでも遅滞なく入手できるとき 当該他の事業者から本人特定事項に関する資料を入手する方法
四 依頼者の属性、依頼者との業務上の関係、以来の内容等に照らし、依頼の目的が犯罪収益の移転に関わるおそれが少ない場合 自然人本人確認書類(その写しを含む。)又は法人本人確認書類(その写しを含む。)の提示又は送付を受ける方法
五 第一号及び第二号に掲げる方法によって本人特定事項の確認を求めることが正当な法律事務の受任の妨げになるおそれがあるとして、規則で定める場合 規則で定める方法

 尚、5年以内に本人確認を済ませている依頼者に於いては、日弁連規程2条4項にて、本人確認省略の旨を定めている。
 此の節の最後に日弁連規程4条について、依頼者が法人である際の様に依頼者、取引担当者が異なる場合について、取引担当者の本人特定事項確認、依頼権限確認を要しているのだが、纏めると

依頼者 依頼者の本人特定事項の確認 取引担当者の依頼権限の確認 取引担当者の特定事項の確認
法人/自然人 必要 必要 必要
国・地方公共団体 不要 必要 不要
人格なき社団又は財団又は財団 不要 不要 必要
上場企業等実在することが確実なもの 不要 必要  不要

 国・地方公共団体、人格無き社団・財団、上場企業等、実在が認められるものに於いては、依頼者である団体に対する本人確認は要されない。又、人格無き社団・財団に於いては、取引担当者の依頼権限確認も要されない。

 上記した日弁連規則4条の中で”厳格化”という語彙を用いたが、厳格な本人確認について述べる。弁護士等は、資産管理行為等、取引等準備、実行の際、是等が偽り、なりすまし、イラン、北朝鮮のハイリスク国などの居住者等との取引又、外国PEPs等との取引(ハイリスク取引)に該当すれば通常認められる本人確認方法に加え、当該方法に用するものと異なる本人確認書類、補完書類(以下本人確認書類等)の提示を受けるか、写しを含む本人確認書類等送付を受けねばならない。偽り取引、なりすまし取引の際は、上記確認書類等の何れかを過去に用されたものと異なるものであることが要される。

 第2節として、此処からは弁護士に拠る義務について記していくが、先ずは記録作成・保存である。弁護士等は依頼者の本人確認を行った際、確認記録を作成、提示を受けた書類の写し、送付、提出を受けた書類の原本、写しを5年間保存せねばならない(日弁連規程5条1項、8条3項)。本人確認に係る記録事項としては、

  • 本人特定事項確認を行った者の指名その他当該確認者を特定するに事足りる事項
  • 本人特定事項確認の為に用した措置
  • 本人確認書類提示を受けた際の日付と時刻

 又、依頼者の本人特定事項確認が要される場合に限られるが、資産管理行為等、取引等準備、実行をした際、其等概要、規則で定める内容を記載した書面作成、5年間保存せねばならないが、此処でいう規則で定める内容とは、

    • 依頼者本人特定事項確認事項確認記録検索に用する事項
    • 資産管理行為等、取引等の日付
    • 資産管理行為等、取引等の種類
    • 資産管理行為等、取引等に係る財産価額
    • 資産管理行為等、取引等に於いて財産移転を伴う場合、当該財産移転に係る移転元、移転先(弁護士等の行う当該財産移転に係る取引、行為、手続きの一部である場合、其を行った際に知った限りに於ける最初の移転先であり、最後の移転先を指す)の名義・其の他当該財産移転に係る移転先、移転先を特定するに事足りる事項

 保有義務機関についての捕捉。資産管理行為等、取引等終了後5年経過迄が通常だが、其の後確認済み顧客とし、本人確認を要する資産管理行為等、取引等に本人確認省略した際、最終的な資産管理行為等、取引等終了後5年間経過迄、記録保存を要する(日弁連規程5条3項)。
 次に体制整備に於ける措置義務である(日弁連規程9条)。下記にて詳細を記す。

    1. 取引時確認を行った事項情報を最新の情報として維持する為の措置
    2. 事務職員への教育訓練実施
    3. 本人確認等措置実施に於ける規程作成
    4. 本人確認等措置的確実施に要する監査其の他業務統括管理を行う者の選任
    5. 1〜4の他、犯罪収益移転防止に関する法律3条3項、犯罪収益移転危険度調査書内容を勘案し、講ぜねばならないものとし、規則で定める措置

 疑わしい取引届出義務に於いては、犯収法、日弁連規程上どちらも課せられていないが、日弁連規程6条1項、2項、8条1項、2項に弁護士等は法律事務の依頼の受任時、又は法律事務以外での資産管理行為等の受託時に、依頼の目的が、犯罪収益の移転であるかどうかについての慎重な検討を行わねばならず、犯罪収益の移転に係るものである場合は、受託してはならないとし、又、日弁連規程7条1項、2項、8条3項、4項に弁護士等は、法律事務の依頼の目的又は、法律事務以外での資産管理行為等の目的が犯罪収益の移転であることを後から知った場合には違法である旨を依頼者に説明し、説得する様務めなければならず、依頼者が説得に応じない場合には辞任しなければならないとしている。

 此の節の最後として、組織内弁護士について触れておく。所属組織に対する事務行為に限っては、犯収法に基づく所の特定事業者に該当せず、又、FATF勧告解釈ノート用語集に於いても本人確認義務等対象の中に”組織内専門家”が含まれていない旨が明示されており、日弁連に於いても、その旨を会規解説して明示している。