税務本邦マネロン対策における課題

 マネーロンダリングについて、前回我が国の金融庁、警察庁、米国ICPO、FinCEN、IRS、IRS-CI、各々の定義について記したが、今回はこれら機関に於けるマネーロンダリング対策について、又、その対策に於ける問題について述べる。

 我が国のマネーロンダリング対策の相当な遅れは度々記しているが、先ず我が国金融庁の対策。金融庁特定金融情報室は、”犯罪の再発を防止し、犯罪組織を壊滅する為には、犯罪の背後に流れる資金の循環を断ち切る事が重要であり、マネーロンダリング対策が極めて重要である” と示しており、組織的犯罪処罰法に拠り、金融機関よりマネーロンダリングの疑わしい取引届出を受け、情報分析し、捜査端緒とし、捜査機関に情報提供している。
 金融庁は、金融機関に対し、個別に検査、監督を通じ、マネーロンダリング防止に於ける内部管理体制構築に力を注ぎ、是を促しているのだが、抑、マネーロンダリング摘発に対する法執行機関を金融庁に与えれば良いのではないか。

 続いて警察庁の対策である。2004(平成16)年4月、暴力団、薬物及び銃器犯罪、我が国に於ける外国人犯罪組織に拠る犯罪などの対策を一体形的推進させると共に、ICPO(InterPol国際刑事警察機構)などの国際機関との連絡強化をすべく、警察庁刑事局に於いて組織犯罪対策部が設置。同年10月、組織犯罪対策要綱制定。警察庁は、”犯罪組織の資金源を断ち、組織中枢に大打撃を与える取締りを推進する”為、組織犯罪処罰法56条に拠り、金融庁提供の疑わしい取引に関する情報分析をし、組織犯罪捜査に積極的活用し、同法9、10、11条、麻薬特例法6、7条の不法収益等、犯罪収益等、薬物犯罪収益等の検挙に尽力し、組織的犯罪処罰法13、16条 麻薬特例法11、13条の犯罪収益等、薬物犯罪収益等の没収・追徴が適宜行われる様、証拠収集に尽力、組織的犯罪処罰法23条、麻薬特例法19条の没収保全命令請求の積極化通達。
 我が国に於いては1992(平成4)年7月麻薬特例法、 2000(平成12)年2月組織的犯罪処罰法が制定、是に拠り、一定重大犯罪に拠る犯罪収益等のマネーロンダリング行為を犯罪であるとする法制整備が成された訳だが、前回記述通り、前提犯罪に於ける ”脱税” が除外されている限り、我が国国税庁がマネーロンダリング捜査に直接的に関与出来ず、米国の様にいかぬ点で既に問題があるのは言う迄も無い。

 お国変わって米国、ICPOの対策である。組織犯罪に於いては金融犯罪活動防止対策が必須とし、加盟国が犯罪企業資産補足追跡差押えの為の捜査資源集中投入請求決議、又、加盟国がマネーロンダリング情報交換促進及び犯罪組織財務記録への警察接触、犯罪収益没収遂行実施に向けての国内法規採用奨励決議を総会にて行っている。

 FinCENはどうであろうか。米国財務省に限らず、金融システムの犯罪からの保護が任務である事は言わずもがなであるが、麻薬密売人、武器密輸業者、詐欺師など何れに拠るマネーロンダリングであれ、犯罪促進に変わり無く、金融機関を始め、経済そのものを腐乱させる。
 其処でFinCENであるが、法執行機関、規制当局が金融犯罪取締に活用出来得る情報、資源を提供する事に拠り、マネーロンダリングを効果的に防止、発見、訴追する事を実現する点で、我が国よりも上を行っている。

 米国に於ける犯罪活動の大半を占める金銭を扱い若しくは金銭が動機となる犯罪であり、脱税を始め、汚職、詐欺、麻薬密売、そしてマネーロンダリングである。
 是等事犯に於ける判決で、有罪確定となるか否かの全ては、財務調査に掛かると言って過言無く、是こそがIRSがマネーロンダリング捜査に関わる国家の一機関として重視される所以である。国境を超え、世界を股に掛け、多々の金融取引に係る極めて奇々怪々な犯罪なのである。

 其処に於いてIRS-CIは金の流れの足跡を追う金融・財務捜査専門家がいる。所得税法、銀行秘密法違反に対するマネーロンダリングに照準をあわせており、IRS-CIの目から見るマネーロンダリングとは、違法に得た所得の源泉、その金額を隠す事に拠り脱税を行う手立てである。
 百々の詰まり、米国に於いては合法非合法を問わず如何なる源泉の所得であれ課税の手から逃れられない。1986年10月、マネーロンダリング規制法施行以来、IRS-CIの手に掛かり、米国組織犯罪に於ける罪人達は脱税とマネーロンダリングの両面での有罪とされるのである。

 犯罪組織にとってマネーロンダリングというのは分かち難いものであり、麻薬密売、武器密輸を始め、詐欺、賄賂、知的財産窃盗などに拠る不法収益の数々を何としてでも隠すのであり、是等不法収益を然も正当に得た収益と見せ掛ける為、巧みに先進的高度なスキームを利用する。其故弁護士、会計士、銀行家が囲われ、不当収益が見事隠匿に成功すれば、是が組織へ再び投資され、更には犯罪収益増幅の一途を辿る。
 小生が述べる迄も無く、マネーロンダリングは国際社会共通問題である。インターネットを始め、国内外の金融機関を通じ送金する為、マネーロンダリング規制に乏しい国々が狙われ(我が国も当然狙われている。例えば輸送に容易い高額紙幣壱万円、五千円はバルクキャッシュに最適である)、複雑怪奇なスキームを暴くには国際間連携協力が不可欠である。

なのにである。

 米国が納税者コンプライアンスレベル向上の為、一般納税者の合法源泉より生じた所得からの課税のみならず、違法源泉から生じた犯罪者やその犯罪組織の所得にも課税している事をIRS-CIの両者に於ける脱税査察捜査件数均衡、成果実績を公表しているのに対し、我が国国税庁はマネーロンダリング事犯捜査に於ける関与具合の実情を、現行法制の下、全く公表せずである。
 繰り返すが、米国に比して我が国が組織的犯罪処罰法の前提犯罪範囲内に脱税を入れぬ限り、前提犯罪立証に刑事訴訟法上、捜査権限を要す故、事犯捜査不可能となる。結果我が国は対策に於ける国際協力責務を果たせず終いであり、喫緊の課題である。
 抑、縦割り行政の守秘義務規定運用に拠る省庁及び地方公共団体、そして外国政府との間に於ける情報交換阻害は論外、憲法上の供述拒否権保障を根拠にする課税、犯則調査峻別、現行税法に於ける質問検査権規定の解釈、各税法上の税務職員の守秘義務、刑事訴訟法上の告発義務と法律上の義務の衝突に関する解釈など、既にある学説や過去の判例に拠って解決に導けぬものがあり、特別に立法化する必要が出てくる。

 そうでなくとも、再三再四FATF勧告に於いて我が国の不備を指摘されているのである。マネーロンダリングに於いては、地に堕ちた弁護士、会計士、銀行家達の役割に着目し、FATFは、顧客管理義務及び記録作成保存義務、疑わしい取引の届出義務を課す国内法整備を勧告している。
 翻って犯罪者や犯罪組織に於いては、近年に見る金融機関を通じて行うマネーロンダリング対策強化に伴い、新たな技法開発、駆使、又、逆に伝統的古典的技法の再活用に注力している。是等金融機関を通じないマネーロンダリングが地下経済を席巻すればFATFの40勧告+9勧告通りの現行法制や法執行機関の結ぎ合わせでは、最早対処は出来ない。現に其が我が国で発生した事犯、所謂 ”五菱会事件” である。

 本題から少し逸れるが五菱会事件について簡単に記しておく。警察庁が出資法違反、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿・収受)とし、広域指定暴力団山口組五菱会系ヤミ金融グループの摘発であるが、飲食業、経営コンサルタント業、損害保険代理業など表の顔としての企業設立の傍らで、ヤミ金融を立ち上げ、巨額に及ぶ売上金を含む犯罪収益を割引金融債に換えた。
 無記名購入可能な割引債は、その匿名性から資金隠匿に悪用される為、金融機関に於いては割引債現物販売中止、購入希望者への身元確認要求措置を取るが、グループは即座に米ドルへ両替する様になるのだが、その際、窓口での本人確認を回避すべく、偽名、架空住所、小口分散するなどした。
 此処へきて2001年1月施行の預貯金口座開設などの取引に於いて、顧客の本人確認を必要とする旨を制定した本人確認法なのであるが、グループは是をラスベガスカジノが我が国に開設した複数の貸金庫を資産隠匿に用いて回避。しかし犯罪収益海外送金に拠る米国内取引に於いては、米国本土安全省、FBIなどが米国連邦法に於けるマネーロンダリング法違反について捜査を開始。我が国も米国へ捜査員を派遣。ラスベガスのホテルでのギャンブルに対する保証金名目とした歴としたマネーロンダリングである。
 詳しく述べると、米国カジノホテルが我が国の銀行にホテル関連企業名義貸金庫を借りて、顧客が此処に保証金を預け、是を担保として米国にてギャンブルに興ずるといった具合だ。
 又、犯罪収益収受方法として、架空商品売買とする法形式が採られていた。ヤミ金融の手法として、家電製品を買い取る架空売買契約を交わし、その代金だと偽装した上で貸付金交付。この債務者が借りるという法形式を用い、架空リース契約書作成、不法な暴利をリース料金として収受するといった具合である。
 更には宗教法人に対する寄付金は非課税とされることを悪用し、上納金プール、上納金ルート工作を施していたというが、実際のところ、口座の大半が架空名義又は名義貸しだと判明。都市銀行などでは口座解約などの措置が取られ、司法警察が容疑者の銀行口座に於いて没収保全を申請した。
 海外逃避した犯罪収益がその先で更にマネーロンダリングされていた事も判明している。詳細は、闇金融指南役の国際金融機関CS香港のA名義口座開設、不法収益にて購入の無記名割引金融債を日本証券代行に持ち込み換金、外国銀行東京支店経由でCS香港A名義口座へ振り込み隠匿。銀行名義口座間に於ける海外送金故、Aの名義が明るみに出る事が無かった。

 本題に戻るとしよう。現状、我が国はどうか。税関を始め国税庁査察の犯罪捜査抜きに金融機関を通じないマネーロンダリング摘発は、略不可能であろう。
 恐らく貴兄等に知らぬ者は無かろうと思うが ”マルサの女” でもある様に我が国査察官の能力自体は非常に優れているが、地下経済に対し危険極まりない摘発行為に必須な査察要員確保、予算配分、法改正に拠る権限付与(恐らく是は略不可能かと思われるが、米国内国歳入庁犯罪捜査局特別捜査官には、召喚状発行、立入検査、強制捜査、捜索、押収、逮捕、武器携行、潜入捜査、密告者使用などの権限がある)を行うなどの現状抜本的見直しは必須である。
 単純に数字の部分でも見て取れる。先進主要国の国税庁全体に於ける税務職員数を比するに、我が国は第4位と少なく、総人口比で見ても第5位で一人あたりの税収では第2位。表面上実に効率的税務行政を営めている。米国に次いでの経済大国日本として、国際化の荒波をこの様な少数人員で乗り越えられようかと、日々考えている次第である。
 さて次回は、我が国に於ける金融機関を通じないマネーロンダリングについて、惨憺たる現状を記していく。