税務各国各機関で異なるマネロン対策の温度差

 マネーロンダリングの定義について少し深く掘り下げてみようと思う。前回、我が国と米国に於けるマネーロンダリングに対する戦う姿勢の差異やマネーロンダリングにどの様なものが悪用されてしまうかなどを記したが、ここでは、取り締まる側が実際にマネーロンダリングをどう捉えているのか述べる。

金融庁の定義
 金融庁が定義するマネーロンダリングとは違法な起源の収益の源泉を隠すことであるとし、麻薬密売人が密売代金を偽名で開設した銀行口座に隠匿、詐欺・横領の犯人が騙し取った金銭をいくつかの口座を転々と移動させ、出所を分からなくする様な行為などを例として挙げている。
 この定義付けは狭い。というのも、各国国内法に拠り違法な起源の”前提犯罪”の範囲がそれぞれ異なり、我が国の様に脱税を前提犯罪の範囲から除外している国に於いては、脱税金の源泉を隠す事自体がマネーロンダリング定義から除外される。狭義の定義が同じであれ、前提犯罪の範囲が各国内国法で異なれば、当然の事乍ら”マネーロンダリング罪””資金洗浄罪”の適用範囲も異なり、世界に規制の強弱の差異が生まれる。
 これらの事態を打開すべくFATF(Financial Action Task Force金融活動作業部会)が40の勧告に於いて「各国は可能な限り広く前提犯罪を取り込む事を目指して全ての重大犯罪について資金洗浄罪を適用すべきである」と告げている。
 これを察するに、銀行口座を通じたマネーロンダリングを想定しているとしか思えぬ金融庁の例からも分かる通り、前提犯罪から除外された脱税を起源とする収益の源泉を隠す行為や金融機関を通じないで違法な起源の収益を隠す行為を取締りの対象にしているのか、或いは出来るのかという日本の問題が浮き掘りになっている。

警察庁の定義
 警察庁が定義するマネーロンダリングとは、犯罪に拠って得た収益をその出処や真の所有者が分からない様にして捜査機関に拠る発見、検挙を逃れようとする行為と定義。犯罪に拠り得た利益を他人名義での銀行に預金したり、架空の契約書を作成したり、借入金や預り金を装うなどの手口を例に挙げている。
 我が国のマネーロンダリング事犯は麻薬特例法違反、組織犯罪処罰法違反で検挙され、暴力団構成員、準構成員の事犯が主である。
 必ずしも金融機関を通じたマネーロンダリングに限定されない。出所や真の所有者が分からない様にして捜査機関に拠る発見、検挙を逃れようとする行為”と定める警察庁の定義は”犯罪に拠って得た収益について金融庁定義同様、前提犯罪範囲に問題アリであるが、若干の奥行きは感じられる。

ICPO:Interpol(International Criminal Police Organization国際刑事警察機構)の定義
 インターポールが定義するマネーロンダリングは、違法に得た収益の同一性を隠し又は偽装して合法的な源泉から生じた様に見せ掛ける全ての行為又は企てをいう。
 ”違法に得た収益の同一性を隠し、または偽装する行為”は、法執行当局に拠る発見を免れ犯罪者が違法活動に拠り生じた収益の利用を可能にすべく行うものである。
 ”同一性を隠し又は偽装する行為””合法的な源泉から生じた様に見せ掛ける行為又は見せかけようと企てた行為”に関してその範囲は非常に広く、金融機関を通じたマネーロンダリングに限定されないが”違法に得た収益”について前提犯罪範囲がまだ不十分である。
 インターポールはARS(Alternative Remittance System:代替的送金システム)を対象とする。

FinCEN(Financial Crimes Enforcement Network 米国財務省金融犯罪取締ネットワーク)の定義
 FinCENが定義するマネーロンダリングとは、犯罪者又は犯罪組織がその犯罪収益を合法的な商業及び金融の流れに導入して当該収益の違法な性質を偽装する過程をいうとしている。
 マネーロンダリングその他金融犯罪を摘発する法執行捜査を支える組織として、1990年に創設されて以来、FinCENはマネーロンダリングが広範な銀行、証券会社、送金業者、その他企業、カジノを通じて行われるマネーロンダリングを認識している。FinCENの定義は、我が国の金融庁の定義に比べて極めて広いものである。

IRS(Internal Revenue Service:米国財務省内国歳入庁)IRS-CI(Criminal Investigation:犯罪捜査局)の定義
 米国財務省IRSが定義するマネーロンダリングとは犯罪収益を偽装する過程をいうとしている。ここでいう”犯罪収益”の中には、将来犯罪に使うであろうという意図を持ち、米国を通じて移動する”キレイな”お金も含む。資金洗浄には”収益源泉の偽装””収益形態の偽装””認識出来ない場所への収益の移動”を含む。
 米国は更に前述の三つの偽装に加えて”脱税収益”も犯罪収益となる。マネーロンダリングに拠り違法収益と脱税収益が摘発されず、課税されないとなれば、それはもう米国税制にとって脅威以外の何者でもない。この様な地下経済、アングラマネーを非課税、放置すれば税制に於ける国家の信頼、信用は失墜する。
 IRS-CIは、財務省と司法省が中心となり立案した米国マネーロンダリング国家戦略の執行に当たる。マネーロンダリングと脱税の関係は互いに蜜月で、IRSは民事、刑事両面から脱税を摘発する為にマネーロンダリング対策法案を適用。
 IRS-CIが定義するマネーロンダリングとは、所得の真実の源泉を隠す為に行われる活動と金融取引をいい、その目標は違法企業から得た金に合法的な源泉の見せ掛けを与える事である。
 IRS-CIの定義に拠り違法な源泉からの所得と合法的な源泉からの所得であっても脱税に拠り地下経済に流入する部分を犯罪収益として、その源泉の偽装、形態の偽装、場所の移動を含む偽装の過程を広くマネーロンダリングと定義すべきである。