法務FinTechと犯罪収益移転防止法

 FinTechに纏わる法律について続ける。

 金融機関業務に於いて、マネーロンダリングに対する牽制は極めて重要である。当コラム別記にて記し始めたものがあるが、マネーロンダリングとは犯罪に拠り得た収益を金融機関等との取引を経て、然も正当に得た資金の様に見せ掛けたり、架空名義や他人の名義を利用した取引を行うなどに拠り、資金を隠匿したりする行為を指す。

 ここで登場するのが犯罪収益移転防止法である。その狙いは、マネーロンダリング及びテロ資金供与を水際で防ぐと共に万一これらが行われてしまった際には事後であれ、資金トレースを可能にするのである。
 金融機関に対して、本人確認、取引時確認、取引記録作成・保存、疑わしい取引の届け出などを義務化しているのは周知のことと思う。
 犯罪収益移転防止法が定める上記義務を負う事業者を、特定事業者という。金融業務を営む事業者は広義で特定事業者に該当するものとされており、以下に挙げる。

    1. 銀行、信用金庫、信用組合など
    2. 保険会社、少額短期保険業者
    3. 金融商品取引業者
    4. 信託会社
    5. 不動産特定共同事業者
    6. 貸金業者
    7. 資金移動業者・仮想通貨交換業者
    8. クレジットカード業者など

 尚、仮想通貨交換業者は2017年4月施行の改正法に拠り、規制対象になる特定事業者に追加された。この他関連するものとしては、転送不要郵便、本人限定受取郵便を取り扱う郵便事業者、重要な公的地位にある外国PEPsのデータ作成を行う事業者、疑わしい取引などを検知するシステムを作成するシステムベンダーなどがある。
 規制の概要である。犯罪収益移転防止法は特定事業者に対して、

    1. 取引時確認(犯罪収益移転防止法4条)
    2. 確認記録及び取引記録等作成及び保存(同法6条7条)
    3. 疑わしい取引の届出(同法8条)
    4. 取引時確認などを的確に行う為の措置(同法10条改正11条)

などの義務を課している。以後詳細を述べていく。

  •  取引時確認
     顧客などとの間で特定取引と呼称される一定取引を行う際、顧客本人特定事項、顧客管理事項を確認する義務が課せられており、その方法は確認事項に応じ、顧客より申告、書類の提出を受けるなどを定めている。
     特定取引には、銀行口座、証券口座の開設、保険契約締結、金銭貸付、一定額以上の為替取引、現金の支払い等、金融機関が取り扱う多岐に渡る取引に該当している。
     なりすましが疑われる様なマネーロンダリングに利用、悪用される可能性が非常に高いハイリスク取引(我が国ではイラン、北朝鮮を指定国としている)に対し、通常確認よりも厳格に確認し、確認事項も追加するといった対応が成されている。

主な特定取引:
預金口座、証券口座開設、保険契約、金銭貸付契約、貸金庫契約の締結など顧客との間の継続的取引の開始に際し、200万円超の現金の受払や両替、10万円超の現金振り込みなどの一定額超過取引。顧客管理を行う上で特に注意を要する疑わしい取引又は同種の取引の態様とは著しく異なる態様を見せる取引。

ハイリスク取引:
取引相手が関連する他の取引の際に於ける取引時確認を行った顧客や代表者になりすました疑いのある取引。関連する他の取引の際行われた取引時確認に於いて、確認事項の虚偽がある顧客取引。特定取引の内、イラン北朝鮮に居住、所在する者に対する財産移転を伴う取引。外国PEPsとの特定取引。

 因みに外国PEPsとは、Politically Exposed Personsの略で、外国の政府等に於いて重要な地位を占める者(外国国家元首等)とその地位にあった者、それらの家族、親族、及び実質的支配者がこれらの者である法人を指す。

    1. 外国の元首
    2. 外国に於いて下記の職にある者
      • 我が国に於ける内閣総理大臣その他国務大臣及び副大臣に相当する職
      • 我が国に於ける衆議院議長、衆議院副議長、参議院議長、参議院副議長に相当する
      • 我が国に於ける最高裁判所裁判官に相当する職
      • 我が国に於ける特命全権大使、特命全権公使、特派大使、政府代表又は全権委員に相当する職
      • 我が国に於ける統合幕僚長、統合幕僚副長、陸上幕僚長、陸上幕僚副長、海上幕僚長、海上幕僚副長、航空幕僚長、航空幕僚副長に相当する職
      • 中央銀行役員
      • 予算について国会議決を経、又は承認を受けねばならぬ法人役員
    3. 過去に1、2であった者、退任後経過機関の定めは無し
    4. 1~3の家族。
    5. 1~4が実質的支配者である法人。

 2016年10月施行の改正犯罪収益移転防止法に拠り外国PEPsとの取引に際し、より厳格な取引時確認が必要となる。

取引時確認に於ける確認事項と確認方法

自然人  確認事項  確認の方法
A.顧客の本人特定事項
(氏名、住居、生年月日)
 【対面取引の場合】
本人確認書類の提示による確認 ※1
【非対面取引の場合】

  • 郵送等による本人確認書類の受領+顧客の住所宛に転送不要郵便による取引関係文書の送付
  • 本人限定受取郵便による取引関係文書の送付 等
B.取引を行う目的 申告による確認
C.職業 申告による確認
D.代理人の本人特定事項 顧客の本人特定事項の確認方法と同じ
E.外国PEPsに該当しないこと 商業用データベース、インターネット等の公刊情報、顧客からの申告等により確認
F.代理人の代理権等 委任状や住民票、電話などにより確認
法人※2  確認事項  確認の方法
a.顧客の本人特定事項
(名称、本店等の所在地)
 【対面取引の場合】
本人確認書類の提示による確認
【非対面取引の場合】
郵送等による本人確認書類の受領+顧客の本店等宛に転送不要郵便による取引関係文書の送付 等
b.取引を行う目的 申告による確認
c.事業内容 定款、登録事項証明書等による確認
d.実質的支配者 ※3 申告による確認
e.取引担当者の本人特定事項 自然顧客の本人特定事項の確認方法と同じ
f.外国PEPs等に該当しないこと 商業データベース、インターネット等の公刊情報、顧客からの申告等により確認
g.取引担当者の代理権等 委任状や住民票、電話などにより確認

※1 本人確認が保険証など顔写真のない身分証明書である場合、公共料金の領収書等の補完書類の確認または顧客の住居に宛てて取引関係文書の送付といった補完措置が必要となる。また本人確認書類が住民票や印鑑証明書等である場合、顧客の住居に宛てて取引関係文書の送付といった補完措置が必要となる。

※2 人格なき社団については、a.d.f.gの確認が、国・地方公共団体、上場会社等についてはa〜d,fの確認が不要となる。

※3 株式会社の場合、①50%超の議決権を直接または間接に保有する自然人、②、①がいない場合25%超の議決権を直接または間接に保有する自然人、③、①②が居ない場合出資等により支配的な影響力を有する自然人、④、①②③④が居ない場合業務を執行する代表者が実質的支配者に該当する。

    1. 確認記録及び取引記録の作成、保存
       金融機関等は取引時確認を行った際に確認記録として、その内容を記録、保存する義務が課せられている。仮に取引時確認を行わなかったとしても、一定の取引を行ったのであれば、取引記録として、取引期日やその内容を記録、保存する義務が課せられている。
    2. 疑わしい取引の届出
       金融機関等は、取引時確認結果、取引態様、犯罪収益危険度調査書の内容その他事情を勘案してマネーロンダリングの疑いがあると認識した際は監督官庁に届出を行う義務が課せられている。
    3. コルレス契約締結時確認業務、コルレス先とへの通知義務
       国外送金等、外国所在の為替取引業者(コルレス先)との為替取引を行う事業者はコルレス契約(コルレス先との間で為替取引に関する契約)を締結する際、コルレス先から申告を受けるなどに拠り、コルレス先の体制整備状況、営業実態、外国当局に依る当該コルレス先に対する監督実態、当該コルレス先がシェルバンク(架空の銀行)とコルレス契約を締結していないかなどの確認義務が課せられている。
       又、コルレス先に為替取引委託を行う時は、原則送金依頼人の本人特定事項をコルレス先に通知する義務が課せられている。
    4. 取引時確認を適正に行う為の措置
       金融機関等は上述した取引時確認、確認記録、取引記録の作成、保存。疑わしい取引の届出を的確に、そして適切に行う為の措置として継続的な顧客管理、社内体制整備に務める義務を課している。

 現状の課題としては、オンラインでの非対面取引に於ける取引時確認は、証明力に欠け、マネーロンダリングに利用され易い。非対面取引では本人確認書類に記載される住居に転送不要郵便に拠り取引関係文書を送付する事などが義務付けられている。迅速な取引開始や顧客の利便性向上などを考えると取引関係文書が到着する迄の時間は課題であろう。
 又、取引時確認の外部委託が認められているものの、他社が行った過去の取引時確認の結果の利用は原則禁止されており、その都度本人確認書類提示、送付が必要になるという手続きの煩雑さも改善すべきである。