税務逃避する資本と外為法

 犯収法と並んで難解な外国為替及び外国貿易法(以下外為法)は、外国為替、外国貿易其の他対外取引を規制する法律である。国境を超えて経済活動を行うグローバル企業に於いて、同法は何としても理解しておかねばならない。

 外為法の目的であるが、同法1条に”外国為替、外国貿易其の他対外取引が自由に行われる事を基本とし、対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行う事に拠り、対外取引の正常な発展、並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し、以て国際収支の均衡及び通貨の安定を図ると共に、我が国の経済の健全な発展に寄与する事”とある。
 KPT Alliance groupでお世話になっている小生としては、此の文言、読むや否や国側の都合なのか或いは納税者側の都合なのかと嘲笑してしまうのであるが、其は扠措いて、先に進めていく。

 1930年代国際金融恐慌を切欠とし、制定された資本逃避防止法に由来している外為法であるが、其の後1933(昭和8)年制定外国為替管理法、第二次世界大戦敗戦後1949(昭和24)年、外国為替及び外国貿易管理法、其の後我が国は経済成長を経、昭和55、59、平成4、10と改正を受け、為銀制度、実需原則禁止、事前許可・届出制度の原則廃止、対外取引に於ける大幅な自由化が持たらされ、最低限の規制にとどめられた。此の時、外資法に於いて規制されていた対内直接投資等類型が外為法に組み込まれる。
 此の様な一連の自由化の流れで就中2001(平成13)年、米国同時多発テロ事件を受け、本人確認法的義務化した2002(平成14)年改正など、国防、マネーロンダリング、テロ対策などの重要必須な対策を講じる為の改正も同時進行で成され、平和維持活動・国防そしてマネーロンダリング・テロ対策等の為替以外の目的重要性増加に拠り、法律其のものの意味が様変わりしてきている事に注目すべきである。
 中央経済社”諸説 犯罪収益移転防止法・外為法”より、我が国に於ける為替管理政策のあゆみが纏めてあったので引用させて頂く。以下に記した。

内容
昭和6  金輸出再禁止(金本位制停止)、金兌換停止
昭和 7  資本逃避防止法制定
昭和 8  外国為替管理法制定(「外国為替銀行制度」)の導入
昭和 11  大蔵省令により貿易為替管理を開始
昭和 16  外国為替管理法改正(戦時体制へ移行)
昭和 20  GHQの全面管理
昭和 22  民間貿易の一部再開
昭和 24  単一為替レートの設定 1ドル=360円、「外国為替及び外国貿易管理法」(外為法)
並びに「外資に関する法律」(外資法)の制定
昭和 27  IMF(国際通貨基金)、世界銀行へ加盟
外国為替管理委員会の廃止、外国為替等審議会の設置
昭和 29  外国為替銀行法の制定に伴い、外国為替銀行を外国為替公認銀行に改正
昭和 39  外国為替予算制度の廃止、IMF8条国へ移行、OECDに加盟
昭和 46  為替レートの変更 1ドル=308円
昭和 47  外貨集中制度の廃止
昭和 48  変動相場制へ移行、対内直接投資につき、例外業種を除き原則自由化の閣議決定
昭和 55  外為法を原則自由の法体系に改正、外資法廃止
昭和 59  先物外国為替取引に関する実需原則撤廃
昭和 61  オフショア戡定の併設に伴う外為法の一部改正
昭和 62  ココム規制違反行為に係る罰則・制裁の強化に伴う外為法の一部改正
平成 4  対内直接投資等につき、事前届出制から原則事後報告制への移行に伴う外為法の一部改正
平成 10 内外資本取引等の自由化、外国為替業務の完全自由化への移行に伴う外為法の一部改正
(題名から「管理」を削除し、外国為替及び外国貿易法となる)
平成 14 米国同時多発テロ事件を受け、テロ資金対策強化のために、本人確認に係る努力規定の義務化等(平成15年1月6日施行)、
関係省庁等による情報提供等の根拠となる規定の整備等(平成14年5月7日施行)からなる外為法の一部改正
平成 16 我が国の平和及び安全の維持のため特に必要があるときは、閣議決定に基づき、支払、資本取引、役務取引、貨物の輸出入取引などに対する規制の発動を可能とする外為法の一部改正(平成16年2月26日施行)

 前述で外為法の目的、沿革について軽く触れたが、続いて体系についても軽く触れておく。大きく分類するに二つ、先ず外為法の核を成すのが資金の決済・移動に纏わる規制である。要は、資金の流れを抑える事から外為法規制目的を達成しようとする手法が中心にあるという事である。
 そして其を補う形で資金の決済・移動の原因になり得る様な原因取引(対外的取引又行為)に纏わる規制が外核を成している。外為法規制概要を中央経済社”諸説 犯罪収益移転防止法・外為法”より引用させて頂く。

許可制 承認制 事前
届出
事後
報告
補足
支払等
(法16条)

(法55条)
支払い等の受託
(特定為替取引)
本人
確認
適法性
確認
支払手段等の
輸出入

(法19条1項・2項)

(法19条3項)



通常の資本取引
(法21条1項・2項)

(法55条の3)
本人確認
オフショア戡定
対外
直接投資

(法23条1項)
特定資本取引
(法24条1項・2項)
×
(法55条の4)
対内直接投資等
(法27条1項)

(法55条の5)
特定取得
(法29条1項)

(法55条の5)
平成29年改正で追加
貨物の輸出
(法48条1項)

(法48条3項等)
輸出者等遵守基準
 貨物の輸入
(法52条)



仲介
貿易

(法25条4項)
輸出者等
遵守基準
技術
提供

(法25条1項-3項)
鉱山物の加工等
(法25条5項)
その他役務取引
(法25条6項)
技術導入  ○
(法30条1項)
 ○
(法55条の6)
類型横断的な報告 法55条の7 外国為替業務に係る報告
法55条の8 報告徴求
法55条の7 統計のための報告(航空、船、損害保険等)

 では、此の大きく二つに分けた資金の決済・移動に纏わる規制と原因取引に纏わる規制について記していこう。前述した図が参考になると思うので照らし合わせ乍ら読み進めて頂きたい。
 先ず一つ目の支払等。送金、相殺に拠る取引決済に於ける規制である。

    1. 経済制裁措置関係者間での支払、支払の受領(以下支払い等)及び海外パートナーシップへの事業活動資金支払に於いて許可を要する(16条1項、3項)
    2. 原因取引に於いて許可等未了である一定取引の支払等禁止(16条5項)
    3. 3000万円を超える一定支払等を行う者に対する報告義務(55条1項)

 次は、支払等の受託(特定為替取引)。対外的送金、送金の受領を顧客より受託する銀行、資金移動業者に対する規制である。為替取引(送金取扱いと言う方が良いか)に於いては、銀行、資金移動業者のみが行える法的建付けである(銀行法2条2項、4条1項、資金決済法37条)が、送金システム本丸の銀行、資金移動業者に本人確認義務(18条)を課し、外為法上要される一定許可等の手続完了の確認義務(適法性確認義務)を課して、外為法規制実効性確保を狙うものである。報告義務については、55条にて支払等当事者に課しており、銀行、資金移動業者には課されない。
 支払手段等の輸出入、現金など支払手段、証券、貴金属等の我が国より海外へ持ち出す、我が国へ持ち込むなどに於いて一定の規則を敷いている。高額紙幣現物持込み、持ち出しなど銀行、資金移動業者を介さぬ対外的資金移動の様な支払手段等の輸出入を規制せねば、外為法の目的は果たせない。
 例を挙げるに北朝鮮に対する経済制裁措置に於いて、一定範囲の支払手段等の輸出入許可を要しており、加えて、100万円を超す支払手段・証券、1kgを超す貴金属等の輸出入には事前届出を要す。広範な事前届出に拠り、報告義務は課せられていない。
 我が国の税関の厳しいチェックを経て、規制実効性確保が成されている。勿論の事であるが、輸出入という言葉には、一個人が飛行機などで出入国の際に携帯しての支払手段等を用する場合も含むのは言わずもがなである。

 此処からは原因取引に纏わる規制について述べていく。”物の移動、役務提供”の有無で二分出来る。飽迄概念的なものではあるが、下に記す。

(i)物の移動又は役務の提供なし 資本取引、対内直接投資等
(ii)物の移動又は役務の提供あり (a)物の移動あり

  • 貨物の輸出、貨物の輸入

(b)役務の提供又は役務の受領あり

  • 役務の提供(法25条)
     仲介貿易、技術提供、鉱山物の加工等、その他役務取引
  • 役務の受領(法30条)
     技術導入

 先ずは資本取引である。預金契約、金銭賃借契約などの締結、証券譲渡取引など、物の移動も無く、役務の提供も無しに大量資金移動可能な取引が此にあたる。”資本取引規制が先”といった歴史的沿革からか、外為法に於ける資本取引は、役務取引とはならず、別類型とされる。拠って資本取引に於いては先ず、経済制裁措置対象である非居住者との間で成される一定資本取引に許可が要されている。
 次に資本取引の内、対外直接投資については、事前届出を要している。漁業、皮革、皮革製品製造業、武器製造業、武器製造設備製造業、麻薬等製造業の何れかに該当する業種に課される
 其の他資本取引に於いては、事後報告義務規定があり(55条の3)、貿易との関連性が強い特定資本取引について、貿易を通じた関税法などに拠り税関関与がある故、事後報告不要とされる。因みにではあるが、特定資本取引に係る55条の4、報告義務規定があるが空文だったりする。
 令11条の4に於いて、資本取引に係る契約締結等を行う金融機関に”顧客等”の本人確認義務を課しているが、犯収法と同じく、信託の受益者を含んだ趣旨で、”顧客”ではなく”顧客等”とされる。

 次に対内直接投資等・特定取得である。我が国居住者から外国投資家が株式等を取得する様な場合に於いて規定したのが、対内直接投資等で、他の外国投資家から外国投資家が株式等を取得する様な場合に於いて規定したのが特定取得であり、物の移動も役務の提供も無しに外国投資家が我が国エネルギー政策などに重要な日本法人株式等を取得する取引である。
 此の類型に於いては、エネルギーなどの一定業種への対内直接投資等について、我が国国益を守る為に、審査付事前届出制が設けられており、一定の場合の事前審査は不要であるが、原則事後報告が要される(55条の5)。其の他55条の8、対内直投政令6条の5、対内直投命令7条に於いて、事前届出を行い対内直接投資等を行った際、事後的に一定行為を成した場合に実行報告を要する場合があるとしている。

 此処で2017(平成29)年外為法改正について触れておく。外国投資家から外国投資家がエネルギーなど一定業種企業株式を取得した際の規制対象として特定取得という新たな類型が設けられ、又、同改正に於いて、無届けに拠る対内直接投資等・特定取得を行った外国投資家に対して、我が国安全が脅かされる畏れがある場合、29条にて株式売却命令等、必要な措置命令を下せる制度が設けられ、2017(平成29)年10月1日より施行されている。

 翻って続いては、物の移動、役務の提供を伴う取引について述べていく。是等は、経営取引とも呼称される。先ずは貨物の輸出について。世界平和維持の為、ワッセナーアレンジメント(新ココム)など、国際的貿易管理規制枠組みに則り、大量・通常破壊兵器等に利用されてしまう貨物輸出に許可制を敷いている。
 経済産業大臣承認を要するものとして、ワシントン条約などに拠り、輸出規制された貨物・輸出を原則禁止する貨物・需給確保を要する貨物の輸出、北朝鮮に仕向ける貨物の輸出などが挙げられる。事後報告について、関税法などに拠り、税関関与が成される故、基本不要であるが、55条の7、輸出令10条に於いて、経済産業大臣が要すると認める際は、報告を求められるとしている。

 次に貨物の輸入。承認制が設けられ、輸入に於ける数量制限を要するものについては、割当制度が設けられている。其の他、ワシントン条約などに於いて輸入制限されるものには、経済産業大臣承認を要す。

第1号 輸入割当品目 水産物、オゾン層破壊物質
第2号 輸入承認品目(地域指定) 一定の魚類、ワシントン条約・化学兵器禁止法に定める禁止物質等
第2号の2 輸入承認品目
(全地域)
原子力関連、兵器、火薬類、化学品、ワシントン条約附属書Iの対象となる動植物・派生物、附属書II・IIIの対象となる動植物等(加盟国以外からの輸入の場合等)、ダイヤモンドの原石(証明書制度の対象外のもの)など
第3号 確認制度 ワシントン条約附属書III・IIIの対象となる動植物・派生物、ダイヤモンドの原石(証明書制度の対象となるもの)など

 続いて仲介貿易。居住者、非居住者間に於ける外国相互間貨物移動を伴う貨物売買、賃借、贈与に関する取引行為を指す。貨物が国外から国外へ直に移動するので、居住者に拠る物の移動ではなく、役務の提供とされる。要するに

貨物の輸出 国内→国外へ
貨物の輸入 国外→国内へ
仲介貿易 国内→国外へ

である。尚、仲介貿易は、貨物の輸入の規制に準じている。前述にて確認願いたい。

 技術の提供に於ける規則は、条約などに拠り、技術の国外提供、持出し制限や、宇宙開発など一定技術輸出・持出しにつき、経済産業大臣承認が要され、貨物の輸出規制に類似する。
 鉱山物の加工等では、核原料物質、核燃料物質加工、貯蔵、使用済核燃料分離・再生、放射性廃棄物処理の役務取引に於いて許可制を敷く。
 其の他役務取引では、居住者に拠る宇宙開発に係る日米交換公文関係、仲介貿易・金融サービスに於ける北朝鮮関係、証券発行・募集に於けるロシア関係につき許可制を敷き、仲介貿易、技術の提供、鉱山物の加工等規制補完している。

 最後の類型として、居住者が役務提供を受ける取引に技術導入がある。航空機、武器、火薬類、原子力、宇宙開発など。対内直接投資等の規制同様、審査付事前届出制であり、共通部分が多い。政令に於いても、役務提供取引に於いては外国為替令、技術導入契約に於いては対内直接政令となる。

 此の節の〆として、罰則に触れておく。外為法違反は刑事罰対象(69条の6〜70条の2)で、両罰則規定を擁し、犯した個人のみならず、其の使用者たる法人に迄及ぶ(72条)。
2017(平成29)年改正に拠り、法人に対し刑事罰上限の大幅引き上げが成され、上限が10億円とされるも、違反類型の違いに拠り、対象となる貨物等の財産価額の5倍の額が10億円を超す際は、其の額となる。