その他イスラム金融入門

イスラム金融の理解 → イスラム教の(大まかな)理解から始めなければいけません。

イスラム教の聖典をクルアーン(コーランともいう:キリスト教の聖書にあたるもの)といい、イスラム教徒(ムスリムともいう)の人々は信仰心が深く、我々日本人が考えている以上にこのクルアーンに書かれている内容に忠実です。
イスラム法のことをシャリーア(クルアーンに書かれている内容〔教義〕のこと:イスラム教上の法律だと考えればよい)といい、イスラム教徒はシャリーアに反する行為は一切しません。

上記のことを踏まえたイスラム教に則った金融システム・シャリーアに適った(シャリーア適格/シャリーア・コンプライアンスとも表される)金融のことを「イスラム金融」といいます。

「キリスト教金融」や「仏教金融」という言葉がないのに「イスラム金融」という言葉が特別に存在している理由は、イスラム金融のシステム上の概念で独特のもの、特徴的なものがあるからです。基本原則4点を以下に示すと、
利子(リバーともいう)の禁止。←最大の特徴
不確実性の禁止。
賭博・投機の禁止。
禁忌とされる商品やサービスに関する取引の禁止。 → (豚肉、酒、タバコ、武器、ポルノ等)

全て、クルアーンで禁止されています。(シャリーアに適っていない)。
この概念から生まれてきたシステム、つまりシャリーアに適うような金融システムが「イスラム金融」なのです。

イスラム金融と認められるためには、シャリーアで決められた基本原則を金融取引が満たしているかどうかの判断が必要です。

この判断を下す機関を「シャリーア・ボード (シャリーア委員会)」と呼びます。

イスラム法学者3人以上から成り、
① シャリーアに関する深い知識 
② 金融の深い知識 
③ 英語が堪能
の3つを満たしていないといけません。
世界中に70~80人しかいないと言われています。

人材不足のため、一つの案件の判断をあおぐだ けでも数ヶ月かかる場合もあります。
そのためイスラム金融先進国のバーレーンやマレーシアなどではイスラム金融の教育のセンターが開設されています。

シャリーアに適格(シャリーア・コンプライアンス)した実際に使われているイスラム金融のしくみ

利子を回避する手法として、大きく分けて2つがあります。

Ⅰ 「売買・リースなどの実物を介在させた取引」
① ムラーバハ、(イスティスナー)
② イジャーラ

Ⅱ 「信託・出資などの収益を配分する取引」 
      
③ ムダーラバ
④ ムシャーラカ

アラビア語なので表現が少し難しいですが、この4種類が主に利用される手法です。

どういう形であれ、イスラム金融の取引はこの4種類の変形・組み合わせの応用編です。

① ムラーバハ(Murabahah)マージンを上乗せ

Ⅰ 「売買・リースなどの実物を介在させた取引」

ムラーバハは銀行が顧客に代わって商品を購入し、購入価格に銀行のマージンを上乗せして顧客に売却する手法です。
イスラム金融では資金運用手段の七割程度を占める一般的な手法です。
個人では自動車の購入、法人では設備機械・原材料の購入などで使われます。期間は1年~5年のものが多いです。

例:売り手が100万円の商品を売り、銀行のマージンは10%とします。
① 売り手と買い手で購入契約を結びます。買い手は銀行がマージンを上乗せして売ることも承知です。
② 売り手は銀行に商品を100万円で売り、代金を受け取ります。
③ 商品は銀行から買い手に引き渡されます。
④ 買い手は銀行に110万円を支払います。分割払いの場合もあるので「返済」と表示しています。完済するまで商品の所有権は銀行にあることになります。

①´ イスティスナー(Istisnaa)

ムラーバハと似た取引「実物が存在しない場合」

ムラーバハは実物を介在させた取引ですが、住宅の購入(住宅ローン)など、契約の時点で製品が存在しないときにイスティスナー契約を結びます。

 

イスティスナーとは元々「作らせる」という意味のアラビア語です。
発注者(製品買い手)と銀行の間で第一の「作らせる」契約が結ばれ、それを受けた銀行と製造者の間で第二の「作らせる」契約が結ばれます。
「ファーストイスティスナー契約」、「パラレルイスティスナー契約」と呼ばれます。
製品買い手の詳細指図のもとに銀行が業者に先払いし、買い手は事後に銀行に対して製品代金を支払います。
ムラーバハとの違いは、対象となる商品取引が実体として存在するかしないかの違いです。
対象商品が現存しないにせよ、明確に特定されていることから実体のある取引と見なされ、シャリーア適格となります。
住宅ローン・建設プロジェクトや工業製品調達に使われる手法です。

例:
① 買い手からの注文で
② 銀行が100万円の商品を製造者に発注しその代金を支払います。
③ 商品は製造者から銀行を通して買い手に引き渡され
④ 銀行のマージンが10%とすれば、銀行が110万円で商品を買い手に売り、その代金を事後的に受け取ります。

② イジャーラ(Ijarah)リース料を受け取る

Ⅰ 「売買・リースなどの実物を介在させた取引」

イジャーラは銀行が顧客に代わって商品を購入し、それを顧客にリースし、リース料を受け取る手法です。
用益権を銀行から顧客に移転する契約です。リース期間満了後に所有権が顧客に移転する方法もあり、この手法は「イジャーラ・ワ・イクティーナ(リース及び購入)」と呼ばれ、個人の住宅ローンや法人の資産購入で使われます。
イジャーラは土地・建物、機械設備、航空機、船舶などの資金調達手段として利用され、期間は12年程度までとなっています。

例:
製造者が100万円の商品を売り、銀行の取り分を10%として、リースする場合
① 銀行が商品代金100万円を製造者に支払います。
② 製造者が銀行に商品を引き渡します。
③ 銀行から顧客に商品が引き渡されます。
④ 顧客は銀行に110万円のリース料を期間満了まで支払います。「イジャーラ・ワ・イクティーナ」の場合はこの後、購入する、という形になります。

③ ムダーラバ(Mudharabah)信託利益を配分する

Ⅱ 「信託・出資などの収益を配分する取引」

ムダーラバは銀行が顧客から預かった資金をプロジェクトに投資し、プロジェクトで発生した利益を事前に決められた割合で配分を受ける手法です。
ムダーラバでは収益を事前に決めることはできません。配分比率を決めるだけです。
尚、もしもプロジェクトで損失が発生した場合は、資金提供者である銀行が損失を負担することになります。
また、プロジェクトに関しては、特定のプロジェクトに投資する場合と、特定せずにムダーリブに委ねる場合の二通りがあります。
いずれの場合でも資金提供者である銀行はプロジェクトの運営・管理には一切干渉しません。

例:銀行が100万円をプロジェクトに投資し、そのプロジェクトの利潤が10万円あった場合で、資金提供者(預金者・投資家)と銀行の配分比率が3:7であれば、3万円、7万円がそれぞれの配当となります。

イスラム金融において、預金はこのムダーラバ方式が用いられることが多いです。
日本の預金において「利息」となる部分が上図の「配当」として支払われます。
前述の通り、配当は投資の結果次第であるので本来であれば固定ではないのですが、「利益均等化準備金」といった配当に充てるお金がプールされているので、ある程度平準化されています。
銀行が個人客向けに提示するレート(%)は、この数字なのです。

④ ムシャーラカ(Musyarakah)共同出資で収益を配分する

Ⅱ 「信託・出資などの収益を配分する取引」

ムシャーラカは銀行と顧客が資金を出し合い、プロジェクトの共同経営を行いプロジェクトで得た収益を事前に決められた割合で配分を受ける手法です。
ムシャーラカでもムダーラバ同様、収益を事前に決めることはできません。配分比率を決めるだけです。
尚、ムシャーラカは共同経営なのでプロジェクトで損失が発生した場合は、収益と同じく配分比率に応じて顧客と銀行がそれぞれ損失を負担することになります。
また、共同経営なので顧客も銀行もプロジェクトの運営・管理に参画します。

例:
顧客が30万円、銀行が70万円をプロジェクトに投資し、そのプロジェクトの利潤が10万円あった場合、顧客と銀行の出資比率が3:7なので、3万円、7万円がそれぞれの配当となります。
またプロジェクトの損失が10万円だった場合は、3万円、7万円を顧客、銀行で負担することになります。

ちなみに、配分比率(損失負担比率)に関しては出資比率のみで決まるわけではなく、事前に比較的自由に設定されます。

イスラム金融 基本の4手法の概要比較

イスラム貸出に関して

イスラム貸出では、貸出の内容によって様々な手法が利用され、一つの手法ではなく複数の手法が組み合わされる形態(例:ムダーラバとムシャーラカの組み合わせ等)もあります。
主に利用されている手法を以下に示します。

  • 機械・設備ローン‥‥‥BBA、イスティスナー、など
  • 教育ローン‥‥‥ムラーバハ、BBA、など
  • 住宅ローン‥‥‥BBA、イスティスナー、イジャーラ、など
  • 個人ローン‥‥‥BBA、ムラーバハ、など
  • リボルビングローン‥‥‥BBA、ムラーバハ、など
  • 旅行ローン‥‥‥BBA、など
  • 自動車ローン‥‥‥イジャーラ、BBA、ムラーバハ、など
  • 運転資金ローン‥‥‥ムラーバハ、BBA、ムシャーラカ、ムダーラバ、など

スクーク(イスラム債券)のしくみ

債券は元々、金利の概念を利用した証券であるので、通常の形態では金利の授受を含むためどうしてもシャリーア不適格になってしまいます。
そこで、証券の背後に実体取引(商品取引や投資等)を組み入れることでシャリーア適格とする仕組みが開発されました。
下図はスクーク・アル・イジャーラの例。

まず、図の左半分は投資家と発行体の関係を表していて、これは一般の債券と同様です。
取引開始時点で資金が投資家から発行体に渡り、投資家は証券を得ます。期中にはクーポンが発行体から投資家に支払われ、償還時には投資家に資金が支払われます。
ここで、クーポンは利子(リバー)ではない! クーポンの原資は何か?ということが大切です。
そこで図の右半分を見てみると、開始時点で発行体と資産供給者の間で、資産の売買契約およびリース契約が結ばれます。
資産を持っていた所有者(資産供給者)から発行体が資産を購入し、それと同時に資産供給者がその資産を利用し続けるためのリース契約を結びます。
この時点で資産供給者から賃借人になっています。期中における投資家へのクーポンの支払いはこのリース料収入から充てられます。
そして、当初の契約通りに終了時点で対象資産が元々の所有者である資産供給者に売り渡されます。
つまり、終了時点で、反対売買が行われることを前提として開始時点で契約をしているのです。
このシステムにより、クーポンの原資が実物を介在させた取引により得られたものである(つまりこの場合はイジャーラ)、ということになりシャリーア適格となるわけです。
このイジャーラの手法は以前から広く用いられてきましたが、現在ではムシャーラカ方式の利用も多くなってきて、イジャーラ方式4割、ムシャーラカ方式が5割〔2006年〕となっています。

※SPC→特別目的会社(Special Purpose Companyの略) 〔一般的に企業は特別目的会社を設立しそこに資産を移転させます。〕

スクーク(イスラム債券)の市場の実態

最近のイスラム金融の急拡大においてスクークの果たした役割が最も大きく、スクークの増加によってイスラム金融が拡大したと言っても過言ではありません。
スクークは前述した通り、債券発行の裏付けとなる資産があることを除けば、その他は一般債券と特に変わるところはありません。
また、スクークは世界各地の証券取引所に上場可能で、ロンドン・ダブリン・ルクセンブルグと言った非イスラム諸国の証券取引所にも上場されています。

世界におけるスクーク発行額の推移を見ると2000年は3億3600万ドルに過ぎませんでしたが、2003年以降に急増し2006年には200億ドルを上回りました。
2007年はまだ公表はされていませんが、500億ドル以上と予測されています
公共債と民間債に分けてみると、特に急増しているのは民間債であることが右上の表からうかがえます。
また、スクークにも非居住者が発行する「国際債(グローバル・スクーク)」と、居住者の発行する「国内債」とがあり、下の表から共に発行が増えていることがわかります。
発行額シェアは、国際債32%、国内債68%です。〔2006年〕

下の図を見てみると、世界最大のスクーク市場はマレーシアでシェアは67%です。
2位はUAEで16%です。GCC諸国(3頁の地図を参照)のスクーク市場が相対的に小さい理由は、公共債に関して言えば、オイルマネーで潤うGCC諸国は財政も黒字であり国債発行の需要がないこと、民間債に関して言えば、GCC諸国では歴史的に株式に依存する文化があり、債券発行による資金調達はスクークの拡大に伴ってようやく勃興してきたばかりであること、が挙げられます。
しかし、GCC諸国のスクーク市場も年平均で45%の増加を記録しており(2001年~2005年)、ドバイ国際金融取引所(DIFX)は2010年までにスクークの残高は1100億ドルを越えると予想しています。

スクーク(イスラム債券)の市場の実態〔GCC諸国〕

最初のグローバル・スクークは2002年にマレーシア政府によって発行された。
その後は、バーレーン、クウェート、UAE、カタール、サウジアラビア等の中東諸国、マレーシア、パキスタン等のアジアイスラム諸国に加え、ドイツ、イギリス、アメリカ、欧米諸国でも発行しており、発行体は12カ国に及んでいます。(下の図を参照)

2007年7月以降に発表されたGCC諸国のスクーク発行

  • Dar Al-Arkan Real Estate Investment Co. (サウジアラビア) → 発行額10億ドル
  • Qatar Real Estate Investment Company (カタール) → 発行額3億ドル
  • Dana Gas PJSC (UAEに本社があるGCCの共同会社) → 発行額10億ドル
  • Saudi Electricity Company (サウジアラビア) → 発行額13.4億ドル
  • The Saudi Basic Industries Corporation (サウジアラビア) → 発行額21.4億ドル

GCC諸国の最近のスクーク発行の増加については
① 発行額の大型化
② 期間の長期化
の2つの特徴が見られます。
投資家のスクークに対する需要が高く、大型の発行が可能となっていて、いずれのスクークも発行額を上回る応募があり、円滑に消化されています。
また、 長期化の例として、Saudi Electricity Company 発行のスクークは期間20年(満期2027年)です。(期間別シェアは下の図を参照)
また、イギリス政府はスクークを一般債券と同等化する政策を導入しました。
2008年にはイギリス政府によるスクーク国債を発行する計画があります。

GCC諸国は自由貿易地域、関税同盟と経済統合を進めており、将来はユーロのような統一通貨を導入ことが計画されています。
その結果、GCC諸国における金融市場は更に拡大していくことでしょう。

タカフル(イスラム保険)に関して

保険はそもそも、イスラム金融で禁止される要素を全て持つものと理解されていました。
保険事故が発生するかどうかは不確実であり(不確実性の禁止)、少額の保険料を払って多額の保険料を受け取ることは投機的な要素があり(賭博・投機の禁止)、保険会社が保険料を運用する際に利子が発生する(利子の禁止)、と考えられました。
しかし、事故に遭った不幸な人を相互扶助の観点から支援すること(ザカート〔喜捨〕:富の分配、はクルアーンに書かれている)はムスリムの義務であるので「タカフル」と呼ばれるイスラム保険が生まれました。

タカフルは、一般の生命保険に相当する「ファミリー・タカフル」と損害保険に相当する「ジェネラル・タカフル」とがあります。

その手法は大きく分けて2種類あります。「ムダーラバ・モデル」「ワカラ・モデル」です下記に手法を載せておきますが、詳しい説明はここでは避けます。

現在、23カ国に80社近いタカフル事業者が存在し、世界のタカフル規模は総保険料で50億ドル、総資産で200億ドルと推定されています。
これまで保険を掛けていなかった層が新たにタカフルを掛けるようになったことで市場の拡大が進んでいます。
タカフル市場は今後、年平均で15%~25%増加していき、2015年には総保険料は75億ドルに達すると予測されています。

株式に関して

株式投資は出資であるためイスラム金融との整合性は高いです。
ただし、投資対象の企業がシャリーア適格でなければいけません。
例えば、アメリカのマイクロソフト社の株式が2000年の夏に投資対象から外されましたが、これは同社の収入の9%が金利収入でありシャリーアの一般的な基準(5%)を超過したためです。
シャリーアに適った株式は「シャリーア適格株式」と呼ばれています。

シャリーア適格株式は、マレーシア取引所上場株式で見ると886銘柄〔2006年〕、全上場銘柄の86.1%になっています。
また、GCC市場では79銘柄が上場されており、時価総額は1150億ドル〔2007年7月〕になっています。

最近ではイスラム株価指数の設定も相次いでいて、一般の株価指数と同様に対象企業が世界にまたがるもの、特定国の証券取引所上場銘柄に限定するものなど様々です。
S&P社は2007年4月に日本企業のイスラム株価指数の算出を開始しました。
当然、シャリーア適格株式に限定され、日本企業の指数では構成銘柄は291銘柄となっています。
右に主なイスラム株式指数(および債券指数)を載せておきます。

イスラム金融の倫理的側面

イスラム金融は、西欧で活発になっている「社会的責任を担う金融:Socially Responsible Finance(SRF)」運動および「社会的責任投資:Socially Responsible Investment(SRI)」と対比されることが多いです。
SRF・SRIはアルコール、タバコ、麻薬、環境汚染、ポルノ、軍備のような非倫理的な活動への投資は行わず、環境保護、人権、動物愛護、国際間の負債削減、科学技術の進歩などに積極的に行われています。
よって、倫理的・宗教的価値観を経済・金融に関わる判断に取り入れ、SRF・SRIと共有している部分が多いイスラム金融が提供している諸価値(効率性・競争力・収益性)に対して、ムスリムを始め非ムスリムイスラム金融へと惹きつけられています。

最後に‥‥

利子の排除等はイスラム金融の特徴の一部だが、シャリーアは禁止事項だけを述べているわけではありません。
一般的なルールとして、「アッラー(神)が明らかに禁じ給うていなければ、あらゆることは許される」というのがあります。
イスラム金融においては禁止事項に目を奪われがちですが、この言葉の方にもっと注目してもよいのではないでしょうか。(本テキスト作成者の感想)
いずれにしても、イスラム金融は、より望ましい金融のあり方を常に模索していて、まだまだ発展途中のシステムなのです。