その他国税犯則調査手続 第三章

第三章 犯則事件の処理

1.概要

間接国税に関する犯則事件(申告納税方式による間接国税に関する犯則事件を除く。
以下この章につき同じ)の処理と間接国税以外の国税に関する犯則事件(申告納税方式による間接国税に関する犯則事件を含む。以下この章につき同じ)の処理には差異がある。
即ち間接国税に関する犯則事件では、国税局長、税務署長に通告処分権を認めているのに対し、間接国税以外の国税に関する犯則事件では、事件を司法処分に移し、検察官の起訴を促す為告発手続をする事となっている。

(1)間接国税に関する犯則事件

間接国税に関する犯則事件について、犯則事件調査終了の際、直ちに告発する例外を除き、当該職員は所轄国税局長、所轄税務署長に報告せねばならない(通156①)。
国税庁当該職員が調査した間接国税に関する犯則事件については、原則それが重要な犯則事件である時、所轄国税局長に通報、その他の犯則事件では所轄税務署長に通報せねばならない(通156②)。
当該職員から報告、通報を受けた国税局長、税務署長は調査結果から犯則の心証を得た場合、例外(通157②)を除き、書面により通告処分を行う(通157①)。犯則の心証を得ない場合は通告処分を行う(通160)。
下記に間接国税に関する犯則事件の調査から完結迄の関係を記す。

(2)間接国税以外の国税に関する犯則事件

間接国税以外の国税に関する犯則事件について、当該職員の調査により犯則があると思料された時、調査した当該職員は検察官に告発せねばならない(通155)。
この点が間接国税に関する犯則事件と異なる所である。

2.間接国税に関する犯則事件の処理

(1)当該職員の報告

国税局、税務署の当該職員が間接国税に関する犯則事件調査を終了した際、上記(2)の場合を除き原則として所轄の国税局長、税務署長に報告せねばならない(通156①本文)。
間接国税に関する犯則事件にのみこの定めがあるのは、当該職員が行う調査目的が、国税局長、税務署長が犯罪者に対し、通告処分を行う事を前提としているからである。

(2)当該職員の告発

当該職員は、下記の場合直ちに告発手続をとらねばならない(通156①但し書)。
①犯則嫌疑者の居所不明
②犯則嫌疑者逃亡のおそれ
③証拠隠滅のおそれ

これらの場合には、通告処分不可能となるか、通告履行する可能性も殆んどないので、通告処分権を放棄し、一般の犯罪捜査機関である検察官に一任するものである。

(3)国税庁当該職員の通報

国税庁長官には、通告処分権が認められておらず、従って国税庁当該職員が調査した間接国税に関する犯則事件は、これを処分出来る機関へ移す事となる。
即ち重要な犯則事件であれば、所轄国税局長に通報し、その他の犯則事件であれば、所轄税務署長に通報(通156②本文)。
尚調査した当該職員が告発せねばならない場合があるのは、(2)と同様である(通156②但し書)。

(4)犯則事件審理
イ.犯則事件の心証を得る為の調査

国税局長、税務署長は、当該職員の報告、通報に基づき、立件書類、証拠などについて犯則事件審理する。
国税局長、税務署長の審理は、犯則事件について通告処分の前提要件である犯則の心証を得る事にある。

ロ.犯則事件調査の嘱託

国税局長、税務署長は、自分の管轄区域外で犯則事件調査を必要とする時は、その地域を管轄する他の国税局長、税務署長に、事件調査を嘱託する事が出来る(通154②③)。

ハ.鑑定等の嘱託

当該職員は、犯則事件調査の為必要であれば、証拠について鑑定を嘱託し、通訳、翻訳を嘱託する事が出来る(通147①)。

ニ.犯則事実認定

国税犯則調査手続には、刑訴法に定める事実認定は証拠によらねばならない旨(刑訴317)と証拠証明力は裁判官の裁量に委ねる旨(刑訴318)の明文規定はないが、犯則事実にあたっては証拠に基づかねばならないのは当然である。

(5)通告処分
イ.概要

通告処分とは、国政局長、税務署長がその理由を明示して、罰金に相当する金額、没収に該当する物品、徴収金に相当する金額、書類送達に要した費用、差押え物件の運搬、保管に要した費用を納付する事を、犯則者に書面により通告する処分をいう(通157①)。
これを履行するか否かは犯則者任意であり、強制は出来ない。

ロ.通告処分の性質とその効果

(イ)性質
通告処分は国税局長、税務署長権限で行われる行政処分であるが、一言で言えば「刑事訴訟手続きによらない行政上の科刑に代わる手続」である。
その性質は国家と犯則者の間で行う一種の私和であり、形式的には司法処分でないが、実質的効果は司法処分に類似している。
然し通告処分は罰金に相当する金額を納付すべき旨を通知するに過ぎず、決して罰金そのものの納付を命じる強制規定でない。
従って犯則者が、これを納付するか否かは自由で、如何なる場合においても、納付を強制する手段はない。
但し納付に応じない時は、刑事一般原則により告発、起訴手続を採るのみで、憲法において保障される裁判を受ける権利を奪う事は出来ない(憲法32参照)。

(ロ)通告処分の効果
通告処分により公訴の時効が停止する(通157④)。
従って犯則者に通告所が送達された日にその効果が生じ、時効停止されたと解される。
公訴の時効は全て犯罪行為が終了した時点から進行する(刑訴253)が、通告により公訴時効停止された場合は、通告書が送達された日の翌日より起算して20日経過した時から公訴時効が進行する。
因みに公訴の時効とは、確定判決前に時効により刑罰権が消滅する制度をいい、公訴時効完成時は公訴権が消滅するので、検察官は公訴提起出来ない。
仮に公訴提起しても、免訴判決が言い渡される(刑訴337)。
これに対し刑の言い渡しが成された後一定期間経過した為、その執行を免除する制度を刑の時効という(刑法31)。

(ハ)通告処分の更正
通告処分の記載内容に、計算違い、誤記その他これらに類する明白な誤りがある場合、国税局長、税務署長は、犯則者が当該通告の旨を履行する又は通告処分不履行(通158①)、通告不能(通158②)による告発をする迄の間、職権により当該通告を更正出来る(157③)。

ハ.通告処分の履行とその効果

通告書により納付すべき旨を通告された罰金に相当する金額、没収に該当する物品、徴収金に相当する金額、書類の送達に要した費用、差押え物件の運搬、保管に要した費用を指定の場所に同時納付する事を「通告の旨を履行した」という。
犯則者が通告の旨履行した時、告発はなく、又同一事件について公訴提起される事もない(通157⑤)。
即ち一事不再理の原則に基づき公訴権消滅効果が生ずる。

(6)国税局長、税務署長の告発

間接国税の国税に関する犯則事件について、当該職員から報告、通報を受けた国税局長、税務署長は、その事件審理の結果、犯則の心証を得た時、通告処分を行うのが原則であるが、下記の場合最早通告処分では目的達成出来ず、検察官に犯則事件を告発せねばならない。

イ.国税局長、税務署長が通告処分をする事が不適当と認める時(通157②)

(イ)情状からみて懲役の刑に処する事が相当であると認められる時
(ロ)犯則者が通告の旨を履行する資力がないと認められる時

ロ.犯則者が通告の旨を履行しない時(通158①)

犯則者が通告を受けた日の翌日から20日以内に通告の旨を履行しない時

ハ.通告が不能である時(通158②)

(イ)通告処分をするにあたり、犯則者の居住不明により通告不能である時
(ロ)犯則者が通告書受領拒否した為、通告不能である時

(7)告発の性質と効果
イ.性質

間接国税の国政に関する犯則事件については、全て告発が刑訴法の訴訟条件となっている(通159①)。
何故告発が訴訟条件となるかについては、原則国税局長、税務署長が通告処分を必要とし、その不履行を以て初めて告発すべき事としている点及び通告の旨を履行した犯則者に対しては、同一の犯則事実についての公訴権の消滅を認めている点を総合すれば、通告処分をする事が認められている犯則事件については、国税局長、税務署長、当該職員の告発を以て、起訴の要件と解さねばならないからである。

ロ.効果

国税局長、税務署長、当該職員が犯則事件を告発した時には、これによりその事件は検察官の手に移り、刑訴法の規定により処理される。
従って告発する事により告発処分はその効力を失い、告発後は通告の旨の履行を受ける事は出来ない。

(8)通告処分
イ.通告処分の性質

通告処分とは、間接国税の国税に関する犯則事件を調査した結果、証拠不十分であるか、犯則成立要件が欠けているなどの為、国税局長、税務署長において犯則の心証を得られない場合に、犯則嫌疑者に対しその旨を通知する処分である(通160)。

ロ.通知処分を行う場合

(イ)犯則事件に対する証拠不十分の為、犯則の心証が得られない時
(ロ)犯則成立は認められるが、公訴権が既に消滅している時

3.間接国税以外の国税に関する犯則事件の処理

(1)当該職員の告発

当該職員は、間接国税の国税に関する犯則事件調査により、犯則があると思料する時は、告発手続をせねばならない(通155)。
ここでいう思料するとは、当該職員の主観的な嫌疑では足りず、調査により収集した証拠により、犯則事実の存在と内容を客観的に設定し得る事を要する。
それは当該職員の判断に委ねられるが、犯則ありと思料される以上、告発を行う事は当該職員の義務である。
間接国税以外の国税に関する犯則事件については、事件を司法手続に移行し、検察官の起訴を促す為告発手続をするのであり、国税犯則調査手続はこの告発により終了する。
告発の方式について特に規定されるものはないが、手続明確性を保つ為書面にて行い、告発書、証拠品目録、その他調査関係書類等を添付して告発すると共に、差押え物件等を検察官へ引き継がねばならない(通159②)。

(2)その他の処分

当該職員は、間接国税以外の国税に関する犯則事件の調査の結果、犯則ありと思料するに至らず、然も調査手続がない時、調査終了処分をすべきである。
犯則ありと思料されても犯則嫌疑者死亡、犯則嫌疑者たる法人消滅、刑の廃止、公訴時効完成等の事由により、訴訟条件を欠く事となった時も同様である。
これらの場合には告発すべきでないという意見を付して所属長に報告、事件を終結させ、差押え物件等があれば被差押え者、任意提出者に還付せねばならない(通145①)。

4.差押え物件等の管理、処置

犯則事件調査過程において、当該犯則事件の証拠品と思料される物件については、これら物件の証拠としての特殊性に鑑み、その効用が失われる事のない様細心の注意を要する。
既に述べた様に領置、差押えにより占有取得後は、当該職員がその物件を留置の必要がないと認める迄その占有は保持される。
国税犯則調査手続上の差押え物件等の管理等に関する規定を下記に述べる。

①運搬、保管に不便な領置物件、差押え物件、記録命令付差押え物件は、その所有者、所持者その他当該職員が適当と認める者に、その承認を得て保管証を徹して保管させる事が出来る(通144①)。その際封印するなどの方法を以て当該事件に関して当該職員が占有している事実を明白にしておく必要がある。

②国税庁長官、国税局長、税務署長は、領置物件、差押え物件が腐敗、変質した時、又そのおそれがある時は、政令で定める所により、公告後に公売に付し、代金を供託出来る(通144②)。

③当該職員は、領置物件、差押え物件、記録命令付差押え物件について、留置の必要がなくなった時は、返還を受けるべき者にこれを還付せねばならない(通145①)。
留置の必要がないとは、当該物件が証拠として持ち得ないもの、用いる必要のないものをいい、その必要の可否は当該職員の判断による。
還付により領置、差押えはその効力を失う事から、一旦還付した物件を再び占有取得する必要が生じれば改めて手続を行う必要がある。

④国税庁長官、国税局長、税務署長は、領置物件、差押え物件、記録命令付差押え物件の返還を受けるべき者の住所、居所がわからない為、その他事由により還付出来ない場合には、その旨を公告せねばならない。
当該領置物件等につき公告の日から6日を経過しても還付請求がない時は、これら物件は国庫に帰属する(通145②③)。
旧国犯法では、返還を受けるべき者の住所が不明等の際における領置物件、差押え物件の処理方法についての定めがなく、物件が国税当局に停留する状況となっていた事から、平成29年度税制改正において、長期に渡る物件の保管等に係る負担、物件の不慮の破損、紛失リスク解消の観点から、国税犯則調査について、領置物件等を還付出来ない場合の手続に係る規定が整備された。

⑤領置物件、差押え物件について必要があれば、錠を外し、扉を開け、開封などの処分が出来る(通137①)。

⑥通告の旨履行された場合において、犯則者が没収に該当する物品を所持している時、公売その他必要な処分をする迄は、保管する義務がある。但し犯則者はその保管に要する費用を国に請求出来ない(通157⑥)。

⑦犯則事件を告発した際、領置物件等が、通則法第144条1項により所有者、所持者、官公署が保管しているものであれば、保管証を検察官に引き継ぎ、これら物件を引き継いだ旨保管者に通知せねばならない(通154③)。
この引き継ぎが行われた際、これら物件は検察官が刑訴法の規定により押収したものとみなされる(通159④)。
尚告発を行う場合においても、領置物件等の内留置必要なしと認められるものについては、これを還付すべきである。

5.犯則事件に関する刑事手続

間接国税以外の国税に関する犯則事件について、当該職員の告発が訴訟条件となっていないから、告発がなくてもその捜査を行い、公訴を提起し得る。従って一般の刑事事件と何ら異にする所はないが、証拠収集の観点からみた特殊性と税務行政全体に及ぼす影響等を考慮し、実務上は検察官との連携、協調関係に立ち、告発を前置している。告発された事件は、検察庁において受理され捜査開始される。
一般的に被疑者が被疑事実を自認している様な事件については、検察官は被疑者、関係者を在宅のまま取り調べ起訴する事も多いが、否認事件で関係者が非協力であるなど真相解明が不十分な事件等については、被疑者、関係者を逮捕して取り調べる事が多い。
起訴された事件は公判を経て、裁判所において判決が言い渡される事になるが、公判手続は一般刑事事件と差異はない。
即ち人定質問、起訴状朗読等の冒頭手続から検察官の冒頭陳述に始まる証拠調べ、検察官の論告、被告人、弁護人の意見陳述、判決言い渡しが行われる。