その他国税犯則調査手続 第一章

国税通則法第11章は、国税関係犯則事件の調査、処分に関する手続が定められ、この手続きは、財務職員に定められている租税犯調査の為の権限等を定めたもので、理解しておく必要がある。
この手続きは、明治33年国税犯則取締法に規定されていたが、国税犯則調査に係る規定を現代語化する事に併せ、法形式面での整備を図る観点から、平成29年度税制改正において国税犯則取締法は廃止され、当該手続は昭和37年国税通則法に編入されている。

第一章 犯則事件の調査及び処分

1.国税犯則調査手続の概要

(1)あらまし

租税ほ脱などの犯則があった場合又はあったと認められている場合は、早期徹底した調査を行わねば犯則事件が把握困難となる事から、各税法に定める通常の調査、検査と全く異なる証拠収集確保などを行う犯則事件としての調査が必要となる。
従来国税(関税、とん税、特別とん税を除く)に関する犯則事件の調査、処分に関する手続(以下「国税犯則調査手続」という)について、国税犯則取締法に規定されていたが、昭和23年を最後に大幅な改正がなされておらず、条文が片仮名、文語体であるなど表現が現代離れしているだけでなく、内容的にも同じ性格の関税法に基づく犯則調査手続諸規定と比較して不備が少なからず指摘されてきた。
加えて近年、電子メールの活用、電子データの外部サーバへの保管など経済活動のICT化が進展する中にあり、犯則嫌疑者の故意や脱税金額立証等に必要な客観的証拠収集が一層困難と指摘されてきた。
平成28年10月政府税制調査会において、国税犯則調査手続について経済社会構造変化に対応した見直しを行うべきとの問題提起がなされ、外部有識者も交えた検討が行われた。報告によれば刑事訴訟法を参考として電磁的記録の証拠収集手続の整備を行う事や、関税法とバランスをとる観点から規定の現代語化を含めた所要見直しが必要とされ、政府税関調査会においてもこの見直し方針が了承された。
そしてこれら見直しが盛り込まれた「平成29年度税制改正の大網」が平成28年12月に閣議決定された後、税制改正法案「所得税法等の一部を改正する等の法律案」が平成29年2月に国会に提出、同年3月に可決、成立した。当該改正法は平成30年4月1日に施行された。

国税犯則調査手続は、通則法第11章に規定され、30ヶ条の条文からなるが、下記の様に大別出来る。
①犯則事件の調査に関する規定(通131~154)
②犯則事件の処分に関する規定(通155~160)
国税犯則調査手続の体系を図に記しておく。

(2)趣旨

各税法に定める罰則は、全て刑罰を科すもので、過料その他行政罰を科すものではない。従って、捜査機関が捜査し、裁判所が審理裁判すべきものである。
しかし国税に関する犯則事件は
①証拠関係について、一般の刑事事件とは異なるものがある
②証拠収集にも又証拠に対する価値判断にも、特別な知識経験を要する
③間接国税に関する犯則事件(申告納税方式による間接国税に関する犯則事件を除く)について、その全てにおいて、通常の刑事手続による検査官の捜査と裁判官の信義裁判を及ぼすなどといった点から特殊な犯罪である。
その為日常国税の課税事務に従事し、課税物件や納税義務者に接触している税務職員に、その調査と処分を行わせる事が便宣的だけでなく、証拠隠滅を防ぎ、出来る限り敏速な調査と適正公平な処分を行う事を可能とする事から、国税に関する犯則事件の調査、処分について、通則法第11章において刑訴法による刑事手続とは異なる手続を定めたのである。

(3)目的

通則法第11章の規定する国税犯則調査手続には、その目的が定められていないが、本手続制度趣旨から下記の点にあると思われる。

イ.間接国税以外の国税に関する犯則事件(申告納税方式による間接国税に関する犯則事件を含む)の調査は、告発を目標として行われ、告発により刑事訴訟手続に直結する手続であるから、その手続を規制する面で本手続は、正に刑事訴訟手続同様、事件の真相を明らかにし、国税に関する刑罰法令を、適正迅速適用実現する事を目的とするものといえる(刑訴法1参照)。

ロ.間接国税に関する犯則事件について、告発の他、通告処分という特別な制度があり、間接国税に関する犯則事件の特殊性を考慮し、行政機関である国税局長又は税務署長が、裁判において言い渡されるであろう罰金又は科料にに相当する金額、没収に該当する物品を納付すべき旨を犯則者に通告し、犯則者の意思に基づく履行により刑罰権を実現したものと同様の効果を得ようとするものである。
そして通告不履行の場合又一定の事由がある場合はやはり告発により刑事手続に移行させるのである。
従って本法は、間接国税関する犯則事件の調査、処分に関する手続を規定する面では、この種の事件についてその事件の真相を明らかにし、国税に関する刑罰法令を適正迅速適用実現したと同様の効果を与え、又はこれを適正迅速適用実現する事を目的とするものといえる。

尚、通則法第11章の調査権限は、国税に関する犯則調査の為に認められているのに対し、通則法第7章の2に規定する質問検査権は、各税法の定める国税の納付、賦課、徴収が適正に行われているかどうかを調査する為に認められており、犯罪捜査の為に認められたものではない(通74の2、74の3等参照)。

(4)性格

通則法第11章に規定する国税犯則調査手続は、形式的には行政手続であるが実質的には刑事手続に近い性質のもので、行政法と司法の両者の性格を有している。
即ち国税に関する犯則事件の内、間接国税以外の国税に関する犯則事件の調査、処理に関する手続は、告発前提の手続で、刑事手続に直結する手続であるから、その手続規定は司法的性格が強い。一方間接国税に関する犯則事件については、一種の行政処分としての通告処分制度があり、その調査、処分に関する手続規定は、行政法的性格を有しているといえる。

然しながら何人も裁判所において裁判を受ける権利を憲法により保障されている(憲法32)ので、税務官庁の処分に対して、更に正式裁判を受ける権利が残されており、即ち税務官庁の行う行政処分である通告処分は、犯罪者に対する私的和解の申入れと解され、犯罪者は税務官庁の通告処分に対しその履行を強制されるものではない。
従って犯罪者が通告処分に服さない場合は、告発により刑事手続に移行する事になるので、間接国税の犯罪事件に関する調査、処分の手続規定もやはり司法的性格を有するといえる。
又犯罪者がこの通告処分に服し、通告趣旨履行の際には、その犯罪事実に対する公許権は消滅し、その事件について犯罪者は処罰されないので、実質的に通告処分は確定判決と略同様効果を生ずる。

以上の事から通則法第11章の規定に基づき国税局長若しくは財務署長又は国税庁、国税局若しくは税務署の当該職員が行う処分等について、犯罪者は審査請求をする事が出来ず(行政不服審判法7①七)、又行政手続法第2~4章迄の規定は通用されない(行政手続法3①六)。

(5)役割

抗税反則調査手続は、租税犯に対する罰則の適正迅速な適用により、犯罪者又は通告処分による財産上の負担というペナルティを科す事により再犯を防ぐ他、一般の納税意識を強める事により、国民の税負担公平を実現し、国家財政の健全な維持を図る重要な役割を持つ。

2.総則

(1)国税に関する犯則事件の意義

国税犯則調査手続により調査を行う対象は、国税に関する犯則事件である(通131、132)。
その犯則事件とは、国税の納付、割賦、徴収について規定する法律(通則法及び徴収法を除く)の罰則に関する犯則事件であるが、その全てが国税犯則調査手続による調査対象になるのではなく、国税の納付、割賦、徴収に関する直接的犯則事件に限ると解される。
これは国税犯則調査手続が、徴税に関係のある機関の職員である国税庁等の該当職員に、犯則事件の調査に関する権限を与えているのは、それら職員に調査させる事が、特別の知識経験を活用する事により調査成果を挙げ、迅速適正な結果を期待出来るという理由に基づくからである。

従って通則法及び徴収法の罰則に定められる質問検査拒否、妨害等の罪、秘密漏洩の罪の捜査については、国税犯則調査手続の適用はなく、刑許法等の定める所に従い一般の捜査機関により捜査が行われる。

尚通則法第11章に規定する国税犯則調査手続は、国税に関する犯則事件を間接国税に関する犯則事件と間接国税以外の国税に関する犯則事件に分けて規定しており、両者の調査、処分に関する手続は差異があるが後述する。

(2)国税庁等の当該職員

通則法第11章に規定する国税犯則調査手続に基づいて国税に関する犯則事件の調査を行えるのは、国税庁、国税局、又は税務署の当該職員(以下「当該職員」)に限られる。
広い意味の当該職員とは、国税に関する事務執行する全職員をいうが、通則法第11章のいう当該職員は、国税庁長官、国税局長及び税務署長並びに国税庁、国税局、税務署の職員で、国税に関する犯則事件調査を行える部課、都内に所属し、然もその所属長から通則法第11章(犯則事件の調査、処分)に定められた当該職員の権限行使を命ぜられた者をいう。

尚国税審査官(国税につき重大犯則があると認められる納税義務者についての通則法第11章(犯罪事件の調査、処分)に基づく調査、検査、犯則の取締りをその職務としている税務職員をいう。
国税査察官は、国税庁と全国税局、沖縄国税事務所に配置されている)については、その使命を以て通則法第11章(犯則事件の調査、処分)に定められた当該職員権限行使を命ぜられた者としている。

又これら当該職員に任命された者には、身分証明する証票即ち犯則事件調査職員証票が交付され、犯則事件調査を行う際は携帯せねばならない(通140、通規16)。
当該職員は国税犯則調査手続により強力な権限を付与されており、法の適切運用と納税者の正統な権利擁護について、常日頃から細心の注意を払わねばならない。

(3)租税犯類型

税法は財政収入確保を図り且つ、適正公平な課税実現を期す為に、納税義務者に対し、各種義務を課し、更にその実効性確保の為に一定の義務の不履行ないしは違反行為に対し行政上の制裁と刑事上の制裁を科すとしている。
行政上の制裁とは、税法上の一定の義務違反行為に対し、行政機関の行政手続により科す制裁で、現行国税に関しては各種の加課税、延滞税、過怠税などの定めがある。
刑事上の制裁とは税法上の一定の義務違反行為に対し刑事罰(刑法第9条に刑名のあるもの)を科すもので、現行国税に関しては懲役、罰金、科料及び没収の定めがある。
この刑事罰により処罰対象となる行為が、通常租税犯と呼ばれる。この様な租税犯(広義)には、通則法、徴収法に定められている秘密漏洩罪も含まれるが、これらの罪は租税の納付、割賦、徴収に直接的な犯罪ではない故、これらの罪を除いた狭義の租税犯と呼べる。
国税犯則調査手続による調査、処分対象となるのは狭義の租税犯で、以下に記す租税犯においても狭義のそれに限られる。

(4)税務調査と犯則調査との関係

通則法第7章の2に規定する質問検査権に基づく調査(税務調査)は、各税法の定める租税の納付、割賦徴収を適正に成す為に、納税義務者及びこれと一定の関係がある者等に対し質問検査等を行うものであり、純然たる行政手続である。
対して通則法第11章に規定する国税犯則調査(犯則調査)手続は、犯則の存在する事の嫌疑の下に、検察官への告発を終極目標として行う犯則嫌疑者及び証拠を発見、収集する手段であり、形式的に行政手続でありながら実質的に刑事手続に近い性格を有す。
以下両者の差異を記す。

3.犯則事件調査管轄

(1)概要

犯則事件調査管轄とは、国税に関する犯則事件について調査する国税庁、国税局、税務署に所属する当該職員の権限の及ぶ範囲をいい、調査管轄は通則法第11章に定められる他、国税庁、国税局、税務署の組織と所掌事務を定める法令(財務省設置法、財務省組織令、財務省組織規則等)により規定されている。
そしてこれらの法令による調査管轄には、事物管轄、土地管轄がある。

(2)事物管轄
イ.事物管轄の意義

事物管轄とは、取扱う事件の性質により定められている管轄であって、犯則事件の軽重及び間接国税に関する犯則事件か否かにより管轄が定められている(通153②③④)。
この管轄は所掌事務配分により異なる(財務省組織令、財務省組織規則等参照)。

ロ.証拠引継ぎ

犯罪事件の証拠は、後述の通り国税庁、国税局、税務署当該職員が収集するが、収集された証拠は事物管轄に従い下記により引継がれる。
尚税務署、国税局当該職員から国税庁当該職員に証拠引継ぎは無い。

(イ)国税庁当該職員が収集した間接国税に関する犯則事件証拠で、重要な犯則事件に関するものは、所轄国税局当該職員に、その他のものは所轄税務署当該職員に引き継がねばならない(通153②)。

(ロ)国税局当該職員が収集した反則事件証拠は、所轄税務署当該職員に引継がねばならない。
但し国税局で処理すべき重要な犯則事件に関するものは引継ぐ必要はない(通152③)。

(ハ)税務署当該職員が収集した重要な犯則事件証拠は、所轄国税局当該職員に引継がねばならない(通152④)。
因みに通則法153条の「重要な犯則事件」とは、原則的に犯則の手段、態様、規模などから判断し、重要な犯則事件以外のものは、税務署当該職員の管轄となる。
尚間接国税以外の国税の犯則取締りについて、実際には国税庁、国税局、沖縄国税事務所当該職員のみが行っている。

(3)土地管轄
イ.土地管轄の意義

土地管轄とは、事件に関係ある場所を基準として、当該職員に犯則事件証拠収集等調査に際し地域的限界を定めたもので、国税庁当該職員については、言わば全国を管轄しており制限はないが、国税局、税務署当該職員については、其々所属する国税局、税務署管轄地域に制約される。

通則法第11章に規定する国税犯則調査手続は、犯則事件に早期着手し迅速処理する為、事件証拠収集は、事件発見地所轄の国税局、税務署当該職員が行う(通153①)。
これを「発見地主義」というが、この事件発見地とは、犯則事実の存在が当該職員に発覚した場所である。
例えばA国税局当該職員がB国税局管内に納税地を有する者の犯則事件をA国税局管轄区域内で発見した時、その犯則事件に係る証拠収集はA国税局当該職員が行う。

因みに国税局、沖縄国税事務所の管轄区域は、財務省組織令第96、98条、税務署の管轄区域は、財務省組織規則第544、557条に其々定められている。

ロ.証拠引継ぎ

同一犯則事件が数ヶ所で発見された時、各発見地で収集された証拠は、最初の発見地所轄税務署(それが重要な犯則事件証拠であれば所轄国税局)当該職員に引継がねばならない(通153⑤)。
これは事件を一ヶ所総一的処理する必要からである。同一犯則事件とは、数ヶ所発見された犯則事件に関し、犯則嫌疑者と犯則事実が同一のものをいうが、犯則事実が同一であるとは、社会通念上、基本的事実関係同一という事である。
従って同一人の犯した同一税目の脱税行為でも、犯則時期、事実を異にする別個犯則事件証拠については、引継ぎを要しないと解され、又犯則事件発見とは、当該職員が犯則事件証拠を確認出来た事を意味し、投書を受けた、風評を耳にした、或いは内偵段階で単に犯則があると推定した程度で発見とはいえない。

(4)管轄区域

前述の様に、国税局、税務署には管轄区域が定められているが、国税局、税務署当該職員は、犯則事件調査の為必要であれば、所属国税局、税務署管轄区域外における職務執行が可能である(通154)。
旧国犯法における管轄区域外職務執行にあっては、既着手した事件に関連するものを除き、急を要する場合において事前に国税庁長官等から命令を受ける事が要件であったが、経済取引広域化に伴い、近年管轄区域外職務執行を要する事案が増加した状況を踏まえ、平成29年度税制改正において、適時的確な証拠収集を可能にする観点から、管轄区域外職務執行に係る制限を緩和する様改正された。

(5)調査嘱託

国税局長、税務署長は、管轄区域外で犯則事件調査する必要がある時、これをその他の国税局長、税務署長に嘱託出来る(通154②③)。